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11 偽装婚約

 アリーシャさんからフェリクス様と婚約すると告白されてから数日後のこと。


「今日はランチの場所を変えてもいいかしら」

「いいけど、どこで食べるの?」

「秘密の場所よ」


 アリーシャさんにそう言われて、彼女のあとについていくと、渡り廊下を抜けて向かった先は旧校舎と言われる今は使われていない建物だった。


 ほとんどがレンガ造りの学院の中で、珍しい木造だ。旧校舎というだけあって、あまり手入れがされていないのか、壁はつる性の植物に覆われ、ところどころ苔がついている。ここは鍵が掛かっているはずだけど。


 彼女がドアに手を掛け扉を開く。アリーシャさんは鍵が掛かっていないことを知っていたようだ。室内に足を踏み入れると、外側に比べ、案外きれいな状態だった。定期的に掃除をしているわけでもないだろうから、今日のためにわざわざ片付けたのだと思う。


 アリーシャさんに連れられて、一番手前の教室に入ると、そこにはフェリクス様とモルドー様の姿が。


 なんとなくそんな予想はしていたから、驚きはしなかった。


「お待たせしました」

「ほら、ふたりとも座って。食事を始めようよ」

「私も一緒にですか?」


 フェリクス様が、私の席はここだとばかりに、正面に用意されていた椅子を手で示した。

 私が戸惑っていると、アリーシャさんはさっさとフェリクス様の隣に座ってしまう。


 モルドー様はいつも通りフェリクス様の斜め後ろに立っていて、気配を感じさせないように努めていた。ちなみに彼の食事は、フェリクス様が授業を受けている間に済ませているらしい。


 どう考えても、私はお邪魔虫では?

 それにまだ、仲がいい二人を見て平常心でいられる自信がない。


「私が同じ席に着いているところを、誰かに見られたらまずいんじゃないですか」


 中庭の場合は、フェリクス様が勝手に空いているとなりのベンチに座っているだけだから、私たちと向かい合わせなわけではないので、ギリギリ許容の範囲だと思う。


 向かい合わせとなったら、絶対にまずい。


「だからよ。いずれ殿下と婚約するとはいえ、こんな場所で二人きりになるわけにはいかないの」

「モルドーさんがいますよね」

「モルドーは席には着かないし、僕の命令を聞くから。席を外せと言えば、僕がアリーシャ嬢と二人きりになることは出来るからね」


 は? 二人になるのがまずいのに、二人になるためにモルドー様に命令する?


「すみません。言っていることが、理解できないんですが」

「えっと、とにかくパティーさんには一緒にいてほしいということなの。お願い」


アリーシャさんが手を合わせる。ここで私が嫌だと言って突っぱねていたら、押し問答になって、食事をする時間もなくなってしまいそうだ。


「――まあ、今日だけなら……」


 友達と、その婚約者になる人と、その人に横恋慕している私の図。

 なんだかな……。


 この三人でいることに狼狽えないなんて無理な話だ。


 だから私は、フェリクス様の斜め後ろにいるモルドー様に視線を合わせた。それに気が付いたフェリクス様が後ろを確認してから首をかしげる。


「まあ、いいか。はい、これ限定品なんだって。食後に食べてよ」


 フェリクス様はにこにこしながら、アリーシャさんと私の目の前に焼き菓子を置いた。


「ありがとうございます」


 一応お礼を言ったけど、この状況ではまた、ランチすら喉を通りそうにない。


「アリーシャ嬢、偽装婚約を受けてくれてありがとう」


 偽装婚約? いきなり、なにそれ?


「いいえ、こちらこそ、私の条件を飲んでいただけたので、とてもありがたいと思っていますわ」


 前にそんなことを言っていた。


「万が一婚姻することになっても、ほかに好きな男ができたら、いつでも言ってくれ。その時はすぐに離縁するから」

「ええ、その時はお願いします。私もこれでやっと安心できますわ」


 フェリクス様も好きではないのにアリーシャさんと婚約するってこと? それにそんなこと私が聞いちゃっていいの?


 驚きと戸惑いで、落ち着きがなく不審な動きをしている私にフェリクス様が優しく微笑みかけた。


「パティーに、僕たちの契約は知られてももいいんだ」

「でも……」

「だから、口止め料を渡したよね」

「口止め料?」


 どうやら、先程貰った焼き菓子のことらしい。


もしかして、これって、私に聞かせるための小芝居だったんじゃ……。


 だとしたら、身分違いで私と結婚できなフェリクス様は、誰とも結婚しないためにアリーシャさんと嘘の婚約を結ぶってこと? で、もしかしたら結婚しなければいけない可能性もあるから、もう離婚の話までしてるの?


 私のためなら、そんなのどっちにも悪い。


「ほら、パティーは自分のせいだと思ってるよ」

「ですが、いま言っておかないと勘違いをしたまま、フェリクス様を諦めてしまいそうだったんですもの」


 私の知らないところで、本当に何やってるんですか、もう。


「僕のわがままが一番なんだけど、それよりもっとまずいことになりそうだから、先に手を打つことにしたんだ。ついでに言っちゃうけど、パティーには僕の愛人になってもらうからね」


「はい? 今なんと?」

「僕の愛しい人ってこと」


 フェリクス様は言い方を変えたけど、誤魔化されるわけがない。


 私が愛人になるって、どういうこと。


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