1.彼女に導かれて
「ノムーラはん、こんにちは。あれ。どないしはった、暗い顔して」
「モルーカスはん、こんにちは。いやな、あの子がいなくなったんや」
「へ? あの子て。だれだす?」
「ほら、あの子やがな。ここんとこ毎日、ここ来てロボと遊んでた」
「あ。あのお嬢ちゃんでっか。たしか株オヤジが連れてた子や」
「その株オヤジがな、退場したんや。わてらの空売りのせいでな」
「決算翌日の怒濤の売りの日でんな。恒例の受難や。逃げ遅れでっか」
「欲かいて資金ぜんぶ突っ込んでたらしィわ。即退場」
「自業自得やけど、お嬢ちゃん気の毒や。ヤヨイちゃん、でしたな」
「せや。板のアイドルやでぇ。みなの人気者」
「板のアイドルいうたら、スレで歴代いろんな人おりましたな」
「基本、文字の世界やから容姿わからんし。歳は、まあ分かるけど」
「スレはおっさんばっかやから、女子が降臨するだけでなごみますわ」
「女子でも、わてには罵詈雑言やでェ」
「ま、ノムーラはんは老若男女、あまねく嫌われてまっから」
「とほほ。悲しいもんや。あの子だけや、露骨にわてを嫌わんかったの」
「ま、好かれてたんでもないでっしゃろけど」
「けど、どこ行たんや。やっぱり、あの株オヤジが連れてったんやろか」
「保護者やからいっしょに居るんちゃいまっか」
「そやろな。あ~あ。まさかな~ 道連れにしてへんやろな」
「ノムーラはん、なんでそんな気に病むんでっか。よその子のことで」
「わてのせいにされてるんや、あの子いなくなったの」
「あいつのせいだ。無慈悲な空売りかましやがって」
「あんなかわいい子が犠牲になあ。よく平気な顔してるぜ」
「血も涙もねえんだよ。クソ機関の手先め」
「(手先やのうて機関そのものなんやけど)まあ、こないに言われて」
「いつものことやないですか、罵詈雑言浴びるのんは」
「けど今回はな、すぐそこで遊んでた子やし。なんかへんな罪悪感が」
「トシでんな、ほろりと来て。季節変わり目で寂しなる時期やし」
「わて、あの子、探しに行こ思うねん」
「へ? なにをまた藪から棒に血迷うたこと言わはるんでっか」
「なんか仕事にならんのや。後ろめたさと胸騒ぎでな」
「それひょっとして、遅めの夏休み取りたいだけちゃいますの」
「ちゃうがな。ま、休みは確かに取ってないなァ」
「なら、行って来たらどないだす。ここはロボもAIも居ることやし」
「あいつら信用ならんでェ。人の仕事、丸取りしよるもん」
「大丈夫ですて。日本はAIの活用ヘタやて孫さんも言うてることやし」
「せやな。なら、行こか、モルーカスはん」
「え。わて、関係あらしまへんがな。わ、やめておくれやす。わぁ」
本日は晴天のお日柄もよろしく、樹海行きのバスにご乗車、まことにご愁傷さまでございます。
思い起こせばバブルの崩壊以降、下がるばかりの株価を苦に、巷は自暴自棄の民であふれ、機会があれば死地へ赴く性行は看過すべからざるものがあり、億利人と称される人々の心を痛めてまいりました。その結果、有志が集い、樹海行きバスの運営と相成った次第でございます。おかげをもちまして樹海バス運行も8周年を迎えることと相成りました。
みなさま、樹海に到着するまでのひととき、来し方行く末を心ゆくまで凝視め、この機会を新たな出発の門出と成していただければ幸いに存じます。
申し遅れましたが、わたくし坂部と申します。樹海までの道行きのお伴をさせていただきます。不明な点、相談ごとなどございましたら、どうぞご遠慮なくお声がけください。
「ノムーラはん、なんでわてら樹海行きバスなんぞに乗ってるんでっか」
「モルーカスはん、野暮は言わんとこ。あの子探しにいくんや」
「株オヤジが樹海行ったて確証がありまんのか」
「株板、退場したらまず樹海やろ。似たような親子連れ目撃情報あるし」
「え? だれぞ見たんでっか」
「防犯カメラの映像やがな。ロボに精査させたんや」
「ノムーラはんとこのロボ、そんなこともやりよるんでっか」
「オールマイティや。便利やでェ。使いようやけどな」
みなさま、間もなく当バスは樹海パーキングエリアに入ります。降車時、ご希望の方に樹海リュックをお渡ししています。中には地図とロープと簡易踏み台が入っておりますのでお役立てください。またサンドイッチと助六のセットもご用意してありますのでどうぞお受け取りください。なおアルコール類は有料となります。また樹海内では防災上お煙草はご遠慮いただくようお願いします。降車後は散会、自由行動となります。それでは、長らくのご乗車お疲れさまでございました。
なお、当バスは当地で1時間ほど休憩を取り、その後、帰路に就きます。心変わりなされた方は当バスをご利用ください。それではお気をつけて。
「ノムーラはん、着いたようでっせ」
「ぷふぁあ~あ~あ。よう寝た」
「降りまひょか。お弁当ももらえますわ」
「よっこいしょと。あ、おおきに。お、リュックもかい」
「ノムーラはん、それ要りまへんやろ」
「え? これ、サバイバルセットやないの」
「ちゃいまんがな。あの世への必須アイテムでんがな」
「ま、ええやん。お弁当入るし。どっち行こ?」
「みなはんちりぢりでんな。あ、せや。坂部はーん。聞きたいんやけど」
はい。ええ。たしかに四五日前の便で、そのような父子連れのお客さまがいらっしゃいました。気になってお声がけし、お子様だけでも私どもにお預けいただけないかとお話致しましたが、もはや耳には入らないごようすでした。株犠牲者のご子息を養育する篤志家グループの連絡先などお渡し致しましたが、うわの空でございました。またお嬢様がお父様から離れたくないご様子で、私どもではどうにもなりません。そこの遊歩道から風穴のほうへ向かわれたようです。はい。
「そうでっか。あの道でんな。おおきに。ノムーラはん、あっちだす」
「そか。暗くなる前にひと回りして帰ろ。もう気が済みそうや」
「かたちだけでっか。心配やないんですか。ヤヨイちゃんのこと」
「そら心痛めてるわ。けど、坂部はんでも、どないもならんかったんや」
「親子の絆でんな。子どもは社会の宝て、いつになったら根付くんやろ」
「それ、日本ではムリや。子は親の私物やもん。風土やな」
「文字どおり殺生でっせ。あんないたいけな子を」
「辛気くさい話はエエから。早よ進も。お、なんや宴会やってるで」
「この世の名残りの宴ちゃいまっか。あ、どこ行きなはるんや」
「いや、あの宴会に居るんちゃうか思て」
「ノムーラはん、ヘタに顔だすとまた袋叩きあいまっせ」
「せやな。遠巻きにしてようす見るだけにしよか。声、聞こえるわ」
「くやしい。こんなふうに人生終えるのか」
「ききききき」
「だれを恨むでもないけど、空売り機関だけは許せん」
「いつもの恨み節、空しいだけだ。やめようぜ」
「事実だからな。爆下げ退場はあいつらの計略なのだ」
「それにはまった俺たちがバカなのさ。欲望の成れの果て」
「ほんま樹海来てまでぐちぐちと。あ、ノムーラはん、どこ行きなはる」
「もちっと近づいてみんと、ようすわからんやん。株オヤジ居るかも」
「あ、やめなはれ! 音たてたら、みつかる!」
「うん? だれか居るのか。死に切れんのなら一杯どうだ」
「こっち出ておいで。みな死出の道連れだ。飲もう」
「あれ。こいつ、ひょっとして、ひょっと」
「あ、ノムーラだ。ここであったが百年目!」
「ちょうど恨みが頂点だ! 喰らえ! この!」
「おい。吊しちまおうぜ! ロープ ロープ!」
「そこの枝、そこに引っかけて」
「よーし。引っぱれ! オーエス! オーエス!」
「よさこいさっさ! ほいさっさ!」
「わ。ノムーラはん、言わんこっちゃない。わぁ。どないしょ!」
「う、ぐぐぐぐぐわ。やめんか! わ。うぐぐぐぐあ」
「ええい。見過ごしできん。こらァ! やめい! やめーい」
「あ、もう一人出てきた。仲間か」
「モルーカスだ。外資の空売り機関だぜ。こいつも吊そう。それ」
「わわわわ ぬぬぬぐぐ やややややめいぃいい」
「ぐふぐううう た す け て くくく・・・・・」
あわや風前の灯火。二体の足は地を離れ、バタバタと空しく宙を蹴る。そのときふわりと風が舞った。
「ならぬぞ! 愚か者ども!」
…ト現れたる騎乗の人。光一閃、空中にきらめくと、ノムーラ&モルーカス両人、地べたにどたりと落ちる。
「うううううう」
「ぜえぜえ はぁはぁ」
「だれだ! よけいなことしやがって」
「なんだなんだ。ド派手な恰好しやがって」
「コスプレか? まるで中世の騎士だな」
「わ。馬だぜ、本物の」
「バトルゲームの最中か。失せろ」
…ト罵りたる愚民を馬上より一瞥したるかの人物は、甲冑の下からくぐもった声を絞り出す。
「おまえたち、首をくくる覚悟もないのであろう。ならば、この刃のしずくとしてやろうぞ」
…ト手に持ったる刀剣を振りかぶる。愚民は恐ろしさに声も出ず、蜘蛛の子を散らすように森の奥へ遁走する。騎士は刀剣を鞘に収め、馬首を返すや一散に駈け去った。あとには森の緑の匂いが濃く残った。
「うううう。はぁはぁ。ノムーラはん、大丈夫でっか」
「うぐぐぐぅ。うう。モルーカスはん なんとか 生きてる わ」
…ト互いに無事を確認し、助けてくれた御仁は何処と馬の駆け去ったほうに目を凝らす。
「おいト書き。もうええわ。わてらででけるから。もう引っこんどり」
…ト強がってノムーラが申すので、ト書きはいったん引っこみます。
「いまの誰やったんやろ。わてら助けてくれた」
「すごい恰好してたな。おおかた映画の撮影か樹海でゲーム中のやつやろ」
「刀剣、真剣でしたでェ。このロープ、みごとな切り口やわ。スパッと」
「ほんまや。あんな剣でゲームかい」
「とにかく遊歩道へ戻りまひょ。ここは危ない」
「せやな。もう帰ろか。バスの時間もあるし。よっこらしょ」
「あ痛テテ。腰打ったもんやから。難儀やなァ」
「道、あっちやろ。鬱蒼としてるから方角わからん」
ぎゃーぎゃー ぐあーぐあー ちっちっちっ
「色んな鳥の声しますな。森林浴にはもってこいやけど」
「モルーカスはん、のんきやな。わてら道に迷ったんとちゃう?」
「なんか同じとこ回ってるような気もしますな」
「開けたとはいえ、深い森やもんな。空間も時間もあてにならん」
「スーツのまんま来るようなとこちゃいますな。歩きにくいわ」
「そんなん言うてるヒマに遊歩道さがそ。あ。なんか音が」
ぐおおおおおおおおお! ビュン! ビューーーーン!
「なんや! この風! わ。わわわわわわわ」
「あかん! 吸いこまれまっせ! 枝につかまって わ! 折れた!」
「ひ。ひいいいいいい ふぎゃ」
…トいつの間にか風穴の近くに来ていた二人は、逆巻く気流の渦に巻き込まれ、深淵の闇のなかへ消えていった。
どさっ! ドサ! バタン!
「痛てててて」
「またや 痛い うううう」
「なんや。どうなってるんや。ここ、どこ?」
「吸い込まれたんまではハッキリしてるけど。吐き出されたん?」
イエッイ! オオ! ドドドドドド! ガシーン! ガシャーン!
「わぁ! なんや! なにしてんの?」
「どこや! ここ!!」
おーりゃああああ! わわわあああ! ドッシャーン! どすん!
…トもんどり打って倒れた銀色の塊は、走り去った馬から落とされた騎士で、心配そうな顔をした若い男が駆け寄って助け起こそうとした。
「おまえはその者の従騎士か。ならば、おまえの馬はあるか。では、その馬でその者を運んでやれ。ただし槍や短剣以外の武具は、甲冑や兜、馬はわたしのものだ。わかったら早々に立ち去れ!」
…ト戻って来た馬上の騎士が言うと、若い従騎士は深々と頭を下げて主の甲冑や兜をそこに残し、馬の背に乗せて立ち去った。そこに居合わせたノムーラ&モルーカスは口をあんぐり、眼をぱちくりさせて始終を見ていた。
「おまえたち。どうしてここに。なぜこんなところまで来た」
…ト荒れ果てた街道の町外れ、橋の真ん中にすっくと立つ馬上の騎士は、両人に気づき、それが誰か分かって呆れた調子で問いかけた。
「いや、追って来たんやのうて、迷って歩いてたら風に巻き込まれて」
「決闘してはったんですか。わてらエラいとこに突っ込んだもんや」
「おまえたち、私に見覚えはないか」
…ト馬から降りた騎士は兜を脱いで、甲冑の面を外した。トそこに現われ出でたるは、豊かな黒髪をひるがえし、清々しく見目麗しい美少女だった。両人の驚くまいことか。口をあんぐり、しばらくは息もできなかった。
「ぷふぁー! えええ。女子やったんでっか!!」
「べっぴんさんやなぁ。またなにが悲しうてこんな恰好を」
「ここはおまえたちの世界ではない。おまえたちこそ奇妙な出で立ちだ」
「え? わてらの世界やないて。ここはどこなんでっか」
「わたしたちの世界だ。これが騎士の真正の衣装、武具である」
「ほんまもんの騎士はんでっか。て言われても、いま中世やないし」
「中世ではない。われらの世界は時代を超えて存在している。それより」
…ト騎士は両人に近づき、ほっそりした手を差し出す。その掌の上に不意にホログラムが出現する。ノムーラ&モルーカスはその3D像に見入った。
「これでも見覚えがないと申すか。おまえのロボでよく遊んだものだ」
「ヤヨイちゃんやがな! おーお」
「こんな姿になって。ああ、気の毒なこっちゃ」
「それはわたしの彼の地での姿だ。この子の実体はわたしだ」
…ト女流騎士が告げると、両人は顔を見合わせてポカンとし、その意味を理解するに及んで驚愕の雄叫びを発するに至った。
「ええええ! フガフガフッ! て、ト書き、エエかげん引っ込めや」
「びっくりやけど、ラノベではふつうなんでっしゃろ。変身、転生・・」
「え。せやな。どんな姿でも元気でなによりや。わてうれしい」
「探しに来た甲斐がありましたな。ヤヨイちゃんの無事確認できて」
「でもこのお人がヤヨイちゃんやなんて。なかなか実感わかんわ」
「ギャップはあれど、ご本人が言わはることやし。信じまひょ」
「うんうん。せやけど、見れば見るほどべっぴんさんやなあ」
「面影ありま。で、昔の誼みで、わてら助けに来てくだはったんでっか」
「父を探して偶然行き遭ったまで。成り行きだ。礼には及ばん」
「いやいや、おおきに。命の恩人や。けど、お父はんて株オヤジ・・・」
「えーこほん。お父上とは樹海ではぐれなはったんでっか」
「そうだ。父はまだあの樹海の森でさ迷っているにちがいない」
「そうでっか。樹海は広いから・・・あ、わてら樹海へ帰りたいんやけど」
「どう行ったらええんですか。道さえ教えてもろたら、わてらだけで」
「せっかく来たのだ。おまえたち、しばらく此の地に留まってはどうだ」
「へ? いや、わてら仕事もあるし。目的も果たしたことやし」
「ここて、なんか切迫した空気感がおますしな。わてらには不似合いや」
ひょおおおおおー ぎゃーぎゃあああ
「風も物凄いし、鳥も不気味やわ。おお恐わ。な、ノムーラはん」
「え。あ。助六とサンドイッチあるわ。食べてこか。ヤヨイちゃんも」
「わたしの名はサー・マルティ オブ・ザ・グリーンフィールドだ」
「え。マルちゃんでっか。なんでんええわ。いっしょに食べよ」
「あそこに酒場みたいのありまんな。あそこで飲み物でも頼んで」
「行こ行こ。マルちゃんも」
「サー・マルティだ。では、酒場の者に馬や武具を取りにこさせよう」
「わてらが運びまんがな。あの騎士のでっしゃろ。馬は、あれや」
「わて、お馬さん苦手や。ノムーラはん、頼んまっせ」
「よっしゃ。はい、どうどう。ここつなげばよろしな」
「お。小綺麗なお店でんな。よいしょと」
「ほい。サンドイッチにお寿司にカップ酒や」
「持ちこみは困るんだけどね」
「そんな。エエやん。女将さんもツマみなはれ。助六、うまいでぇ」
「どれ。もぐもぐ。お、ワインでいけそう。ビールにもあいそうだねェ」
「でっしゃろ。たっぷりあるでぇ。ないしょでたんともろたんや」
「それでリュック、パンパンに。ノムーラはんには呆れるわ」
「ワインでもビールでも持ってきてんか。さ、マルちゃんもやってや」
「サー・マルティだ。ところでおまえたち、手を貸してくれぬか」
…ト打ち明けたる話を、飲み且つ食べながら聞くノムーラ&モルーカスの顔は見る見る青ざめていき、いまや声も出ないありさまである。
「たのむ。戦に加勢してくれ。数的不利で猫の手も借りたいのだ」
「わてら、株屋でっさかい、猫の手にも劣りまっせ」
「せや。そこらのノラ公捕まえてきたほうがなんぼもマシや」
「なさけない言葉を聞くものだ。大の男のくせに猫にも劣るか」
「そんな言われても。わてもナニワのあきんどだすて言いたいんやけど」
「わてはウォール街やからカンベン。で、相手はどんなやつですのん」
「炎のドラゴンだ。欲望の権化で、人の世の下衆な執着を食っている」
「なんか、わてらみたいでんな。そんなもん放っとけばよろしいに」
「向こうがわが方に攻めてくるのだ。戦うしかない。わが君は」
…ト話すところによると、マルティの主は清貧をモットーとし、つつましやかな生活を送りながら慈悲深い領主としてこの地方を治めている。人望はあるが金はない。したがってお抱え騎士や兵のなり手が少ない。
「そうでっか。相手は精鋭が3千。こっちはせいぜい千にも満たずと」
「3倍やと話になりまへんでェ。和睦しはったほうがよろしわ」
「それはできない。領土領民を守るはわが君の務め。欲の権化はわが敵だ」
「お父はんのことでっか。わてらの空売りで大損こきはったもんな」
「父は愚かだが善良だ。執着心をドラゴンに操られたのだ」
「うーん。てことはそのドラゴンはわてらの大将みたいなもんでんな」
「人間を欲に駆りたててくれるんやから、わてら売りブタの守護神や」
「うぬっ! おまえたち、許さぬぞ! その首、ここへ出せ!」
…ト高潔なる女騎士は椅子を蹴って立ち上がり、ダガーの鞘を払った。血の臭いを解き放ち、ギラリと光る抜き身に、両人ただ震え上がって許しを乞う。女騎士は唇の端をゆがめて笑った。
「ならばわれらに加勢しろ。おまえたちの仲間も総動員して闘うのだ」
「へへー。なんでもやらせてもらいま。命には替えられんもん」
「マルちゃん、カンニンや。つい口がすべってもた」
「サー・マルティだ。よし。では早速、作戦を考えよう」
…ト、ダガーを鞘に収めた女騎士は椅子を引き寄せてすわり、ノムーラ&モルーカスを前に地形や兵員の説明を始めた。こうして橋のたもとの小さな酒場の夜は更けていくのだった。




