悪の味方 -2-
全身に痛みが走る。
怪人化する時はドーパミンが脳内を駆け巡る。
直ぐに痛みは消え、ある種の快感へと変わっていく。
「あぁ……ああぁ!!!」
体の感覚は遠くなり、分厚い皮膚が体を覆う。
意識はぼんやりとし、視界は膜がかかったように白まっている。
(今、助けてやるからな!)
自分が思っているのに、自分が思っている気がしない。
この感情は、恐らく怪人にしか理解できないだろう。
暴走した感情を、冷静に俯瞰する自分がどこかに居る。
変身が完了しきる前に、俺は敵陣に駆け出していた。
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(なんだ、何が起こった?)
俺は、現状を理解出来ずに……いや、理解することを拒んでいた。
さっきまで、桃の首を掴んで持ち上げたはずの緑は、逆に首根っこを掴まれ、宙に浮かされている。
「す、すまん。お、おれが悪かった。た、助けてぇ」
それが緑の最後の言葉となった。
ゴキッと大きな音が鳴って、緑はようやく地に戻った。
ただし、彼の首の骨は折られており、魂はそこから抜けていた。
(こんなに強いのか……デーモン矢倉!?)
かくいう私も彼の一撃であばら骨を、何本か折られ、身動きが出来ずうずくまっていた。
隣では黄色が頭を潰され、絶命している。
「く、くそぉ。ち、近寄るな!こいつがどうなってもいいのか!?」
青色が一瞬の隙を突いて、気絶した桃色を羽交い締めにした。
槍を桃色の首筋に当てて、矢倉を脅している。
「馬鹿、青色!矢倉をこれ以上刺激するな!」
「うるせぇ赤色!こんな時までリーダー面してるんじゃねぇ!」
私が忠告するも、青色は聞く耳を持たない。
矢倉は指先を真っすぐに青色に向けた。
「おい、動くんじゃねぇ!こいつがどうなっても……」
それが青色の最後の言葉だった。
矢倉の指先から発せられた黒い光線は、青色の脳天を貫いた。
青色がその場に倒れ込もうとする。
すると、矢倉は目にもとまらぬ高速で青色の傍に近寄り、一緒に倒れ込む運命だった桃色を支えた。
そして、ぐったりとしている桃色を抱きかかえて立ち上がったのだ。
デーモン矢倉は、どす黒い血管のような波打つ筋肉に全身を覆われている。
体格は変身前の2倍くらい大きくなったように見える。
頭からは角が生え、目は充血して真っ赤に染まり、血の涙が頬を伝っている。
―――まさに、彼は怪人と呼ぶに相応しい。
しかし、私はその姿を見て思ってしまった。
思ってしまったのだ。
彼こそが、ヒーローなのではないか、と。
悪の味方 -2- -終-