狂乱との戦い
「タナベさんって方はいるかい?ちょっと頼みたい事があるんだが!」
頭にターパンを巻きマントを羽織った男がタナベを頼ってきた。
引き戸をガラガラと開け、珍しそうに店内を見渡した。
ザルに色々な野菜が入れ置かれ、パッとしない感じだがどれも見たことのない野菜や果物だった。
「話の前に、この果物いいかい?」
冒険者の男が手に取ろうとした瞬間、バチバチっと手がしびれた。
「ごめんな、それは取れねーんだ!こっちの物をやるよ」
タナベは部屋にあった箱から、リンゴを一つ取り投げ渡した。
冒険者は小さなナイフでリンゴの皮をむき、小さく切り裂き口の中にリンゴを放りこんだ。
「くー、うまい!」
リンゴを食べるに夢中で何しに来たか分からなかったが、思い出したように話を切り出してきた。
「そうだそうだ! 此処に来た様はアンタ、いやタナベさんに炊き出しの依頼をしに来たんだ。 どうだい? やって見てくれないか、、、」
何処かで俺が作ったハチミツ鍋を聞き付けたのか、たまにこんな輩が店に出向いて来る。
今回もそんな感じと安請け合いをしたのが、この状況を生んでいた。
「オイ、こっちは五人前だ!」
「オイオイ、10分も待ってんだ!早くしてくれよ」
「こっちは8人前だ!」
飛び交う注文にヤジ!
此処は剣や魔法が飛ぶ戦場ではなく、冒険者が集う冒険者酒場だった。
それから数週間が過ぎ、毎日の労働に汗を流し充実した毎日を送っていたタナベだったが、、、
(ちがーう!なんだ? なんなんだこれは!)
俺自身、この場所に来てから充実した仕事に汗を流し、毎日の労働に満足して、、いや、そんな問題ではない。
この非現実離れした日常!
酒場を見ると冒険者らが、俺が作った飯を食べステータスアップを図る光景が、朝から晩まで続いていたのだ。
そう俺事が考案した料理は、ステータスアップの効力があったのだ。 それでこの冒険者酒場に雇われたという事だった。
初めは自分でも驚いたさ!
自分が作る料理に補正値が付く能力があったとか、でも! それとこれとは意味が違う。
朝から晩まで同じ料理を作り続け、充実した毎日よりも楽で稼げる毎日の方が良いに決まっている。
行く事を躊躇い、気が付けば行く事を拒否する様になっていた。
「だから其処を頼むよ、タナベさん。金は幾らでも払うからさ!」
店のオーナーは以前にも増して、服装が華やかになり儲けている事が分かる。
そんな時、それだったらと閃いた事があった。