アグレ石鹸
「それ何処で買ったんだい? 最近、その石鹸を良く見るから気になっていたんだよ」
通りを歩いていた女性は、知り合いの手に握られていた包みを指差す。
「これかい? これは内緒なんだけど、とある場所の一角で個数限定で売られているのさ!場所を教えるけど、役人には内緒だよ」
そう告げると女性は足早に立ち去った。
アレグ石鹸
数年前にクボ大平原で販売されていると噂になったが、石鹸だけであんな場所に行く者がなく。立ち寄った者が言うには、店は傾き倒壊していたらしい。
それから数年後、密かにブームとなる。
通常この世界では入浴する文化はなかったが、石鹸により湯を沸かし、身体を洗う事が当たり前となりつつあった。
「こんにちは! こんにちは!」
ハーメルンの港町の外れにあるスラム街、そこに他の店舗とは明らかに違う建物があった。
その建物は明らかに日本の昭和と言った感じの建物で、店前にはザルに入れた野菜や果物が置かれていた。
「タナベさん居るかい? ちょっと頼みたい物が有るんだけど!」
玄関口から入った居間に、ゴロンと横に成っている男が手を挙げた。
「いらっしゃい!」
「いたいた、良かったよ。それで頼みたい物って言うのは、、、」
タナベはこの街のスラム街に居つき店を開けていた。
開けると言っても八百屋は自動販売されているので、店舗=家と言った方がよかった。
「うちのアイリがスライムの毒に当てられたんだ、街で買うクスリは高いしタナベさんの所に来たと言う訳さ、、、」
ガサゴソと道具箱をあさる音がする
「だったらこれだな、ママロンS! こいつを吹きかけて、この包帯で巻いて置け」
タナベは簡単に回答し、金は貰わず治療具を渡した。
「いつも有難うよ、恩にきるよ!」
アイリと言う名の母親なのか、慌てた様子で店を飛び出していった。
それを見送りながらタナベはスキル欄を眺め、売れ行きの動向を探っていた。
初めてこのスラム街に来た時、うずくまる子供が彼方此方いた。
ジメジメとしたイメージが強く、病気が蔓延しているように見えた。
それをタナベは余った野菜に蜂蜜を混ぜ入れ、はちみつ鍋を考案し子供達に分け与える。
大した事はないが、これは彼が日本人だったのかも知れない。
困っている者がいれば、手を差し出してしまうと言う事に...
それからスラム街の者たちと次第にうち解けた。
そんな時、一人の冒険者がタナベを訪ねてきた。