兆しのちらし
クボ大平原の朽ち果てた建物に触れた瞬間、息を吹き返したかのように再生した。
その中に男が中に入り込んだ瞬間、忽然と建物がその場所から消えた。
「いらっしゃい! いらっしゃい!」
にぎやかな声が辺りを埋め尽くす、ここハーメルンの港町は今日も活気にあふれていた。
(なんだよ!こう言う事だったのか、それならそうと初めに言って欲しかったな!)
男は誰に言うわけではなく独り言を呟き酒場の戸を開いた。
ガヤガヤガヤガヤッ!
酒場を見渡すとイカツイ顔をした者たちが酒を飲み交わしていた。
「オッ、来たなタナベ!」
店のオヤジが声を張り上げた。
「タナベ、今日は何しに来た」
露骨に酒場の親父が話を切り出して来る。
「いやちょっと情報収集だよ!」
「おっといけねー忘れてた。こいつを売って貰って助かったぜ!」
明らかに此方の世界の物とは思えない物をカウンター越しに出す。
「いいぜ、何個でも売ってやるよ!」
その小瓶は以前、店の子供が夜泣きが凄いと聞き売ってやった蜂蜜だった。
「そうかい、じゃあまた一つ頼むわ!」
酒場の親父はタナベに金銭の入った袋を渡す。
「毎度、どうも」
タナベは袋をポケットにしまい酒を飲みだした。
アレから俺は色々な街で情報を集め、次のスキル候補を探していた。
通常スキルといえば、経験値とレベルアップによりその能力が開花されて行くものだが、俺のスキルは違っていた。
以前のスキル「八百屋」は形・本体として残るが、その販売能力は未だに続き自動販売をしている。
力や体力・ステータスと言った面を鍛え強くするならば、冒険者ギルドでの登録が一般的だ。
販売を目的とした環境の構築は、商人ギルドに入る事もなく利益が蓄積されていた。
そう今現在は、シェア拡大を想定した情報収集だった。
「くっそう、もう少しでゴルゴルを倒せたのによ!この剣がもう少し切れ味がよかったのによ」
愚痴っぽく話す男の声が聞こえてくる。
「なにを言ってるんだか、それはアンタが欲を出しすぎて周りを見てなかったからだよ」
「でもよう、ゴルゴルの鱗は高く売れるから、もう少し欲しかったのは確かさ、、、」
男はポーチの中にギュウギュウに押し込めていたのか、ゴルゴルの鱗をテーブルの上に出した。
「そんなに取って置いて、よくもまだ欲しいとか言うもんだね」
赤毛にポニーテールの女性が鱗を集め、カウンター横にある買取所に持っていく。
「これだから女は怖いよ」
あきれ調子に酒を飲む男に仲間の連中は賑やかに笑っていた。
既にタナベは「兆しのちらし」を50件ほど持ち、八百屋の様な色々な物を販売しているのではなく、一つのジャンルに限定し販売する兆しの手法で、この町・この世界の流行り品を模索し手掛けていた。
「兆しのちらし」
:自動販売する手法で、在庫を持たずとも販売が出来る。
・一つの商品を説明し購入させる手法で、当たれば莫大な財を成す。
・当たらない時もある、その辺りは気を引く売り文句などを
・商店街などの人の集まる場に現れ販売を促す。