おもてなし
この世界に来て一週間ほど過ぎた頃には、八百屋と言えど店内には何種類かの野菜と果物が置かれ、販売される程までに成っていた。
販売数の拡張に寄り、陳列棚の拡張と言った事柄もあり、これはこれと言って充実な毎日だった。
日数が過ぎるに連れ、湯で体の汗を流す程度では臭いを消すまでに至らなかった。
部屋にこもりきりでも汗を掻き臭くなる。
現世時代に引きこもり時代に経験していた。
自分で臭いと分かったら、他人にとっては相当臭いのだ。
それも一週間も入らなかったら、鼻が曲がる程に臭いだろう。
そんな事を考えながらカテゴリー欄を眺め見ていると、雑貨と言う項目を発見した。
いやいやいや、まさかねと思いながら見てみると、歯ブラシや歯磨き粉、女性用のパウダーや油などがあり、其処に石鹸の絵が映った。
「おおおっ!」
大平原の真ん中にある小さな八百屋、一人男が声を上げた。
そう言えば昔、家の近くにあった八百屋では、野菜類の他に日用品なども売られていたが、何年も売れなく置かれていたのを思い出した。
しかし高い一個 600z だ
今日の売り上げを使えば一個は買える額だ。
脇の隙間から若気の至りな香りが充満していた。
チャポーン!
「さっぱりした後の湯はいい感じだな!」
石鹸を一つ買い風呂に入っていた。
そんな時、何処からかなにかが走る様な音が聞こえて来た。
こんな何もない大平原、それも一週間も誰もこなかったのにと考える前に、服を着て玄関戸を閉めようとした時だった。
「すいません、此処で宿を取らせて頂けないでしょうか?」
視線の上から声がした。
どうやら馬で移動中、灯りが灯った八百屋を見つけたらしい。
そんな時、遠くからユンピョウの声が聞こえて来た。
「ここは危ないです。ささっ中にどうぞ!」
其処で初めて声をかけて来たのが、鎧を纏った女騎士だと気づいた。
馬は警戒していたがニンジンを見せるとガブリと頬張り、八百屋の横の納屋に入っていった。
ガシャガシャとイカツイ音を立て店に入って来る、言うなれば初めてのお客さんだ。
緊張する反面、野菜を買いに来た客では無く、宿とし使わせて欲しいと来た客だと納得した。
店と言っても昔ながらの八百屋てきな作りで、土間の店舗の横に四畳半ほどの和室とキッチン、六畳の和室と、水回りがある作りである。
仕方がないので、六畳の部屋を使ってもらう事にした。
しかしフルプレートメイル!
騎士の鎧を着て上がろうとしたので、開いた口が塞がらなかった。
ブーツのままで家に上ろうとするし、此処でようやく気がついた日本では無いのだと気が付いた。
女騎士の名前は「ビジット」
任務の帰りに早馬を飛ばし、クボ大平原を越えようとしたらしい。
浴槽に湯を入れビジットに風呂に入って貰う。
日本の何処にでもある程の浴槽だ。
それと購入した石鹸を彼女に渡し使い方をレクチャーをした。
風呂に入っている間に飯の用意をする。
飯と言っても売れ残りに野菜と、少しだけ買っていた米を使い料理を作る。
簡単で何もない食卓だが、俺事の精一杯のおもてなしと言った所だった。