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乳母車の僕に頭上から、彼女は優しく声をかける。

「これからあなたの部屋に案内してあげるからね。気に入るわよ」

僕は、少し顔を上に傾けた。一ヶ月という期間内では、はいと返事をする事も許されない。

「それからそのお洋服も着替えないとね」

御堂美矢の言葉に、僕は一瞬だけ疚しい想像を巡らせた。だが、直ぐにその考えをかき消そうとした。

彼女が足を止めたのは、観音開きの赤い扉の前だった。中に入ると、正面の奥の方に大きな、あかフェンス付きの白いベッドがあり、その上に金色の、翼を広げている梟のモビールが吊るされている。壁には柵のついた窓が一つあるだけで時計もない。

「これはね、あなたくらいの大きい子供が過ごすための部屋よ」

こんな呪われた部屋が、彼女にとっては子供部屋らしい。僕は一抹の不安を覚えた。乳母車が床を転がり、ベッドへと向かう。彼女は、まるで介護でもするように、僕を揺りかごへ移動させようと力を入れた。


僕は少しだけ腰を浮かした。体重はそこまで重くない方なので、向こうもそこまで苦戦はせず、ベッドの移動は無事に果たした。

おかしな感覚だ。ぶら下がっている梟が僕を見下ろしながら揺れている。もう既に記憶には消えてしまっているが、僕もこんな赤ん坊の頃があったのだろうか。何故か懐かしい感じがする。

「私の可愛い赤ちゃん。ここは気に入った?」

彼女の問いに、僕は苦笑いを浮かべて頷く。生まれてこの方、初めて赤ちゃんなどと呼ばれた。

「そう、それなら良かった。それじゃあお着替えをしましょうね」

彼女は壁際のアンティーク調の衣装ダンスを開くと、両手で開いた。そして取っ手のついた四角い箱と、洋服を二枚抱えて僕の元へ戻ってきて聞いた。

「あなたは黄色と青。どっちが好き?」

思わず答えそうになって、喉を絞めた。目の前に広げられた服は、新生児が着るような上下の繋がっている服だった。股下はスナップになっている。こんな趣味の悪い服を着なければならないのか。しかし、赤ん坊になるのだから仕方ない。

僕は指を青い洋服の方へと差した。すると、彼女は青い服の方の腕を降ろした。

「青が好きなのね。でも私は黄色いお洋服の方が好き。だから黄色を着ましょう。お母さんが選んだんだから、いいわよね?」

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