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昼が過ぎた頃、退屈すぎる時間が僕を孤独という苦痛で蝕んだ。外からの車の音や、挨拶をする声が、僕を責めるような音に聞こえてくる。お前なんかこの世には必要がない存在なんだ。そう聞こえてくる。
気がつくと僕は、番号を書いたメモを手にしていた。
それからは、詐欺なのだろうかという疑いには一切目をくれなかった。あるのは、人生をもう一度やり直したいという微かな希望だけ。僕は携帯から、番号を打ち始める。最初の数字を打つのには数秒時間がかかった。息を吐き出し、やっと最初の数字を打ち始めると、ゆっくりと最後の数字に指を置いた。長いコール音に心臓が止まりそうだった。
「はい。もしもし」
彼女の最初に聞いた声の印象はこうだ。とても弱々しく繊細な声。繊細は繊細だが、その奥に複雑さと根の深さを感じさせるような独特な声だった。人生の澱みを味わい尽くした者だけが発せられる声だ。
「あっ、も、もしもし。あの、掲示板……見たんですけど」
僕は緊張して少し吃った。
「ああ、掲示板」
と、彼女は何か意味を含んだような声で言った。
「あなた、やりたいの?」
そう聞かれ、僕は一瞬だけ躊躇った。しかしこの時の僕は、まだそこまで真剣に考えてなどいなかった。嫌なら途中で辞めればいい。そんな安易な考えで、承諾をした。
「はい。やる気はあります」
すると、電話越しで彼女はクスクスと笑い声を漏らした。耳に突き刺さるような不愉快な音色だった。
「そう。それじゃあ、詳しい事は私の元に来て貰ってから教えるわ。住所は……」
「はい。分かりました。それじゃあ、何時に」
「直ぐ来てちょうだい。あなたもお金が必要でしょう」
彼女は不気味にそう言った。お金が必要なのは違いなかったが、焦る程ではなかった。貯金もある程度はある。だが、僕は何となく彼女に逆らえずに、了承をしてしまった。彼女は待っているとだけ返事をして、通話を切った。5分という短い時間で、僕はどっと疲れきって、布団に寝転がった。