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僕は一瞬、100という数字に目を奪われた。だが、すぐに頭の中が冷静になり、よくネットなどで現れるような詐欺なのだろうと思い直した。楽をして稼げるという謳い文句に、実際に釣られる人間がいるのだろう。普段なら、こんな記事を見ても、僕はこういった詐欺に引っかかる人間は馬鹿だなと鼻で笑っていた。だが今は違う。もしも本当に百万円が手に入ったら?今の精神的に追い込まれている状況は変わるだろう。人間は、どん底にいる間は、吊された紐ならばどんなに細くても掴みたくなるものだ。
僕は興味本位で、その怪しげな文章を最後まで読んでみる事にした。そこにはこう書かれている。
名前:オモト
6:20
100万円稼ぎませんか?
私は躬田江市に住む普通のシングルマザーです。夫に先立たれ、日々寂しく刻が流れるのを待ちぼうける毎日です。私は生まれつき子が授かれない身体の故、魂から愛を注ぐような事も生涯経験が出来ないのです。そんな私の願いを聞いて貰えるのなら、100万円をあなたに差し上げます。
私の子供になってくれませんか?詳細は直接会った方にお伝え致します。年齢、性別は問いません。まずは此方にお電話を下さい。あなたからの連絡を待っています。
最後の行には、携帯の電話番号が書かれていた。何だか気持ちが悪く、薄気味悪い文章に思えた。これを書いた主は、きっと精神を病んでいるに違いない。僕はそう思って、スレッドを閉じようとした。だが、パソコンの電源を切ろうとしたその時、僕はあの気味の悪い文章がどうしても頭から離れずに気になって、再びあのスレッドを開いた。
もしもこれが本当ならば、子供の振りをするだけで100万円を稼げるという仕事は、かなり楽なのではないだろうか。もしも僕の他に、電話をして100万円を手に入れるやつが現れたとしたら、僕はとても後悔する。
僕はテーブルの上のメモ帳を引っ張ると、ボールペンで電話番号を控えた。不安と、期待が入り乱れる中、昼までその件を保留した。