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全身がベッドに磔にされているかのように、僕の身体は起き上がることを拒んでいる。その癖、脳は嫌な夢の輪郭と、妄想をなぞり、眠りにつく事を許してはくれない。こういう時、一番最適な方法は、起きなければならない理由を無理に思いつく事だ。僕は手を伸ばせば届きそうな距離に置いてあるノートパソコンを見つめると、それを起床の理由にしようと思いついた。
勢いに任せて布団から飛び起きると、パソコンを起動させる。
現実では誰からも必要とされていない僕の居場所は、自然とインターネットに傾く。顔も本名も分からない。そんな人達に紛れば、希望から無視をされた今の僕でも、少しはマシな人間に思えるような気がした。白い空欄に文字を打ち込めばあっさりと出てくる、画面上に映し出される匿名のシェアハウス。僕はここを利用するのは初めてではない。このサイトは、他の掲示板のような悪意のある書き込みは少なく、良識的だった。
キーボードを叩いて、新しいスレッドを作成する。
『昨日アルバイトクビになった』
遊び心も何も無い、平凡で退屈な文。僕のスレッドは一番真上に来て、その横にNEWという字が点滅した。少し待ってから、更新マークを押すと、スレッドの書き込み数は0から3に増えていた。この時間はあまりサイトの訪問者が少ない。僕はスレッドを開いてコメントを確認した。
名前 :ミク
5:10
まあそういう時もあるよね。ドンマイ。また次があるよ。
名前:xx
5:12
俺も仕事辞めたい…
名前:ぬらりひょん
5:15
じゃあ今日はずっと寝てられるね、羨ましい
どんな素性の人間でも書き込める掲示板のコメントはやはり、ありきたりで適当なものばかりだった。当然だ。誰が顔も見えない見ず知らずの人間に、親身になって救いの言葉をかけるのだろうか?僕は返事を返さず、そのまま掲示板を放置をして暫くぼうっと画面上に浮かぶ声を眺めていた。そう盛り上がらないスレッドに、コメントはすぐに無くなった。最後に一度だけ更新をしてからパソコンを閉じようと思い、また右上のマークを押すと、オモトという名前で新たなコメントが一番上にきていた。
『100万円稼ぎませんか?』