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沈黙に、耳を澄ませる。微かに、だが確かに聞こえてきた音は、金属を小さく打ち付け合うのような音だった。かちゃ、かちゃ。彼女は外側から鍵を開こうとしていたのだ。僕は絶体絶命の危機に震えが止まらなかった。

扉がゆっくりと開かれ、隙間からころころと優しい音色がした。それは赤ん坊をあやす時によく使うガラガラの音だった。

僕は彼女の瞳と目が合った。

「私の赤ちゃん。見つけた」


それから、僕は背中の壁に向かって必至に後ずさって逃げようとした。しかし、隙間から筒が伸びたと思えば、そこから秒速に噴き出された針が僕の首筋を刺した。首元を抑えると、僕の元に彼女は近づいてきた。重くなっていく体と意識の中で、最後まで諦めなかった。僕は彼女を見上げた。彼女は微笑みながら僕の頬へキスをした。


「ダメよ。お母さんの元から勝手にいなくなっちゃ。心配したでしょう?」


僕の瞼はいよいよ、視界を閉ざしいき、暗闇の中に、御堂美矢の声だけが残った。

「愛しているわ」


人里離れた山奥の小屋で、母親が赤ん坊を抱えていた。とてもとても慈しむように、ガラス玉を割らぬようにそっと優しく、両腕に抱えて揺らしている。しかし母親の頬は涙が伝っていた。

「ごめんね、ごめんね」

何度も何度もそう呟く。

赤ん坊は泣きもせずに眠っている。母親はまるで永遠のように赤ん坊をあやしていた。窓から差す月の光が、薄紫色に母親の顔を染めていた。


僕は、ぼやけた視界の中で、一体自分が何をしていたのか、思い出せずにいた。赤く高い天井に、浮世とは離れた世界に居る錯覚がした。だが、僕の意識は小さく聴こえてくる歌によって、はっきりと戻された。


「ゆーらゆーら、ゆーらゆーら、ゆりかごにゆれて、ゆーらゆら。この子はだあれ。私の子。私はだあれ。この子の母さん。ゆーらゆら。ゆーらゆーら……」


僕は声の方向へ少し首を傾けた。白い檻の向こう側、御堂美矢の背中が見える。僕はようやく記憶が蘇り、咄嗟に身体を跳ね上げた。しかし僕の腕と足は拘束されていた。僕の挙動に気づいた彼女は振り向いた。そしてにこりと微笑んでいる。

「ああ、起こしちゃったかしら。ごめんなさい」

僕は何故だか声が出せなかった。喉の奥を動かそうとしても筋肉が引き攣っているようだ。そこで急に、彼女の顔が僕の目の前に現れた。

「声帯をちょっと弄らせて貰ったの」

信じられない彼女の言葉に、僕は目を見開いた。そして必至に声を出そうと喉をひくつかせた。しかし音は静寂の限りを尽くして、僕を絶望の淵へ追いやった。涙が零れ落ちた。

「泣かないで坊や。やっと一緒になれるというのに」

僕の頬を母の手のように撫でる。

「今、私があなたを本物の赤ん坊にしてあげるわ。私が居なきゃ生きられないように」

彼女の左手には、糸鋸が握られていた。僕は泣きながら首を振り、喉奥から何度も声にならない叫びを上げた。糸鋸は、僕の膝下へ宛てがわれた。

そして皮膚へ擦り付けながら、肉へ食い込ませていく。堪えようのない痛みに全身がこわばり、背をそらす。失禁しても尚、それは終わらなかった。

右足の感覚がなくなり、空中に痛みが触れるようだ。まだ地獄は終わらない。次は左足へ糸鋸は食いこんだ。二度目の恐怖心に、僕は神様へ死を懇願した。

そして全てが終わると、僕は完全な僕ではなくなっていた。御堂美矢の顔は血の奥で愉悦している。それを見て僕はまた意識を失った。

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