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「ぎゃっ!!」
と、押し潰された蛙のような声を上げ、僕にしがみついていた彼女の手の力は弱まった。その隙をついて何とか逃れると、ふらつく両足で立ち上がり、部屋の出入り口の扉へ向かって走った。体は頼りなかったが、危機感が僕の脳へ走れと命令を下していた。一度だけ通った事のある、広い廊下を走り、玄関の方へと向かった。
「待てぇ……逃すものか」
後ろから御堂美矢の声が聞こえたが、僕は振り返らずに玄関の扉の外へ逃げた。
広い庭園を走り抜けた。そして総門の前まで辿り着くが、総門は手で開くには余りにも重過ぎた。早くしなくては後ろから御堂美矢がやってくる。直ぐに頭を働かせ、左右を見渡すと、庭園の奥に小さな小屋があった。僕はその小屋に向かって一直線に走る。そして小屋の中へと入ると、扉を閉めて内側から施錠した。忙しく息をしながら僕はその場にへたり込む。恐怖心と緊張感で心臓と頭がばくばくと跳ねているようだ。
薄暗い小屋の中、僕は辺りを見渡す。目が慣れてくる頃には、棚や物の輪郭も捉えることが出来た。棚の上にはホルマリン漬けが並べてある。僕は、恐る恐る近づいて、その中をじっと見つめた。瓶の外側に、草太と名前の書いてあるシールが貼られており、ホルマリン漬けの中を目玉が泳いでいた。僕は思わず、ひっ、と声を漏らして腰を抜かした。その拍子に手に触れたのは、段ボール箱だった。箱の中に沢山のノートがしまってある。僕は誘われるように、その一冊を抜き取ってみた。草太 成長記録 と書かれたノートだった。ページを開くと、そこにはつらつらと細かく筆で書いた細い文字が連なっていた。御堂美矢の字なのだろうか。僕は食い入るように文を目で追った。
[草太 成長記録]
一月 十五日
今日は草太の誕生日。草太が私の赤ん坊になってくれて嬉しく思う。神様、どうか草太を私の元から永遠に離さないで下さい。
今度こそは絶対に、私の子供を愛してみせる。もう二度あんな過ちは犯さない。




