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プロローグ


こんな逸話がある。昔昔、とある田舎の山奥で母親とその子が二人きりで暮らしていた。父親は既に戦死し、母親は一人で幼い我が子の面倒を見た。しかし、まだ産まれたばかりの赤子は、母親の言うことも聞かずに鳴き止まぬ。母親がいくらあやそうが、怒ろうが、鳴き止まぬ。やがて心身共に病を患った母親は、とうとうその手で我が子を殺してしまった。

母親はその後、後悔の念で己も自害をした。だが、母親の苦しみは永遠に、魂と共にこの世を彷徨い、生まれ変わっては消える事が無かった。それだけでは無い。不妊の呪いが母親の身体を蝕んだ。子を産むことが出来ず、母親は何百年、何千年もの間、孤独に生を彷徨った。時代と共に姿と名が変わっても、母親は未だに子供を探している。もう一度、自分が愛してあげられる我が子を。



沈黙の憂鬱



1


水面が幾重も弧を描いて揺れている。その水面の奥には、何か不気味なものがあるような気がした。僕は宙を見上げながら、必至に光を掴もうと藻掻くが、足首を掴まれたかのように動けない。やがて暗い水の底へと堕ちていった。穴という穴へ水が侵入してくる。僕の存在は暗闇に溶けて消えた。

そんな夢を見た。

いつの間にか開いていた瞼が、悪夢を瞬時にかき消して、何の面白みもない現実が、朧気に現れた。倦怠感が身体中を蝕んでいる。口の中には起きたばかりの嫌な味が広がった。

頭上のデジタルには7時が刻まれていた。二度寝をしても良いはずだった。何せ、昨日、仕事を首になったのだから。原因は自分のせいじゃない。一緒に働く奴らが、僕を陥れ、まんまと罠にはめたのだ。

印刷工場で、未使用のインクの蓋が全て開けられ、中身を捨てられていた。それを奴らは口を揃えて僕のせいだと言った。何故彼らがそんな事をしたのかは分からない。多分、僕が真面目で面白みもなく、そのくせ他人の誘いには断ってきたからだろう。

僕は昨日はずっと眠れずに、コンビニで買った小さい日本酒を二本一気に飲んで、無理矢理寝こけた。口の中に糖分が住み着いているようだ。

ベージュ色のカーテンから光が透けている。今日の予定など気にする必要も無い。朝が来た。ただそれだけの事だった。


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