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第二章 討伐計画(1)

【一】


 復讐を決意した飛鳥は、思っただけで勝手に出てきた夕食をとった後、PCの前に座っていた。ターゲット指定のためではなく、今日起きたことを整理しながら状況を打ち込んでいるからだ。


 PCの画面には、二人の名がある。 


「衣鈴……」


 飛鳥に希望を与えてくれた、井口衣鈴。


「久龍……!」


 その希望を奪い絶望に変えた、久龍空奈。


 今日、久龍が取った行動の中で、二つの疑問があった。

 ①なぜ刺された衣鈴自身が死んだのか、②なぜ久龍は武器を持っていたのか。


 ①については、このゲームはターゲットを指定しそのプレイヤーを殺さねばならないゲームだが、単純な殺しでは本人は死なず、内にある魂が消えてそのプレイヤーが死ぬものだからだ。


 久龍は衣鈴を刺した。だが内にある魂たる飛鳥は死なず、衣鈴が見た目通りに死んでしまった。万が一衣鈴が持っていた魂は別プレイヤーのものだったとしても、衣鈴以外の誰かが死ぬだけなので、この疑問は変わらない。


 こんなことが起こるのは、特殊能力によるものでしかない。他人の能力は名前しか分からないものの、思い当たるのは“肉体殺し”能力によるものということだ。


○肉体殺し

 効果:他プレイヤーを殺害した時、その魂ではなく肉体を殺すことが出来る。一日一回使用可能。

 発動条件:「肉体殺しを発動する」と発言する。

 発動可能時間:マーダータイム中


 発動条件こそ知らないが、自身の“霊媒師”能力の始動が、特定の文句を発言することをキーとしていることから、“肉体殺し”もなんらかの発言が必要であることは想像出来る。

 そして今日のマーダータイムが始まった直後、誰かが何か呟いたことは覚えていた。もしそれが、久龍が“肉体殺し”を発動するためのものだったとしたら。


 しかし、久龍が衣鈴を殺すためのステップは、それだけでは不足する。

 それが②の疑問であり、久龍はナイフを持っていたことだ。武器はマーダータイム開始前までは個室に置いておく必要がある。久龍は個室に戻っていないのだから、それを持っていられるはずがないのだ。


 もちろん、こちらも特殊能力である可能性はある。“武器携帯可能”能力だ。


○武器携帯可能

 効果:マーダータイム以外の時間でも常に武器(ナイフ・拳銃)の携帯が出来る。

 発動条件:無

 発動可能時間:常


 だが、能力は一人一つのみ。

 久龍がこの能力を持っているとすれば、①の解となっていた、久龍が“肉体殺し”であることを否定することになる。

 どちらも解決するのは、久龍が“肉体殺し”でも“武器携帯可能”でもない別の能力であることだ。

 だとすれば、“能力拝借”だろう。


○能力拝借

 効果:他のプレイヤーの能力を使用することができる。各能力一度だけ拝借可能。

 発動条件:「(プレイヤーの名前)の(能力名)を拝借」という発言をする。プレイヤーと能力の対応が間違っていた場合無効。無効になった際発言していた能力は二度と使えない。

 発動可能時間:マーダータイム中


 こちらも能力詳細はそれを持っているプレイヤーにしか分からないので、飛鳥には分からない。だが、名前からして他人の能力を借りられるだろうことは分かる。相当に強力だ。

 裏を返せば、容易に使えないということになる。簡単に発動出来るのなら、ゲームバランスなどあったものではないのだ。よって、こんな序盤からポンポンと使えはしないだろう。


 ならば、さらに別の可能性を模索する必要がある。


「あいつ……妙に余裕があったんだよな……」


 ポツリと呟く。


 久龍は今日、誰にも臆することなく、思うがままに動いていたように思う。性格によるものもあるのだろうが、飛鳥がそんな行動を取れる時は、どんな状況に置かれた時だろう。自分がこの館に来て、少しでも動いたきっかけは、何だっただろうか。


「誰かと組んでいる……?」


 井口衣鈴のおかげだった。

 久龍も誰かしらと組んでいたから、あんな飄々としていられたのではないだろうか。


 確証などないが、それで仮定してみよう。

 久龍と組んだ、プレイヤーXが存在する。仮にそうだとして今日を振り返るのだ。


 まずプレイヤーXは、久龍の代わりに武器を持ち出して罰則を受け、持ち出した武器を久龍に渡す。

 罰則を受けて殺しが出来なくなったのはあくまでXであり、久龍には影響しない。だから久龍は殺しが出来たし、“肉体殺し”を発動して衣鈴を殺せた。

 成程、こう考えれば納得がいく。Xがいるか確証はないが、確信した。


「久龍空奈と……そのプレイヤーX……!」


 Xが誰か。

 現段階では、全く分からない。明日から久龍に限らず、他プレイヤーへの警戒も強めるしかないだろう。そうして観察し、Xが誰か暴く。


 復讐すべきは久龍であるが、加担したプレイヤーXだって復讐対象に成り得る。これが、せめて衣鈴のために出来ることだ。


「……ふぅ」


 こんな感覚、初めてだった。

 勉強付けだった毎日は、常に頭を回し、言語に数字、歴史や化学反応に立ち向かっていた。それとは全く違う思考がとめどなく溢れ、飛鳥を突き動かそうとしてくれた。


 意外だった。あ

 れほど死ぬしかないと思っていたのに、ちょっとした覚悟を決めるだけで、こうも世界は変わる。数時間前までの自分とは、まるで別人のようだった。或いは、勉強に集中するという熱意は元からあったのだから、それを再び呼び起こして別の所に向けられただけなのか。

 どちらにしろ、飛鳥は復讐に燃え、巨悪を焼き尽くすしかない。


 ちらとPCに表示された時計を見ると、すでに日付が変わっていた。二回目のマーダータイムまで、十二時間を切っている。ターゲット指定が可能な時間のだ。


「一先ず、ターゲットは久龍にするが……」


 やるべきことは決まった。覚悟もした。だが、久龍を殺す算段もないし、Xが分からない。動きたいのに動けずもどかしい。


 何より、妙な気分だった。

 飛鳥の目下の狙いは久龍空奈ではあるが、かといって久龍自身を銃殺したり刺殺したりするわけにはいかない。

 飛鳥は“肉体殺し”能力者ではないのだから、久龍の魂を消滅させなければ、久龍を殺すことは出来ない。復讐したいのは久龍なのに、別のプレイヤーを狙わねばならないのだ。余計に、もどかしい。


 だが、迂闊に動いて自分が死ぬ、なんてことになるのは最悪だ。


「寝るか」


 これ以上PCと向き合っていても、何も生まない。全ては明日、二回目のマーダータイムで起きることを見てからだ。

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