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もう愛なんていらない

作者: 湖城マコト

 警察署の取調室にて、中年の男性刑事が連続殺人犯の取り調べを行っていた。

 現行犯逮捕だったため、犯人の白い衣服には所々被害者の返り血が付着している。


「どうしてこんなことをした?」

「……絶望したんです。真実の愛なんてこの世界には存在しないと分かってしまったから。だったらいっそのこと、この手で愛を消し去ってしまおうって」

「話が飛躍ひやくし過ぎだ。そもそも最初の被害者以外は、お前とは何の関係も無い人達だろう」

「関係ありますよ。言っているでしょう。愛を消し去ってしまおうと思ったと」

「お前のそのふざけた考えのせいで、何人犠牲になったと思っている?」

「何人ですか?」

「逮捕直前にお前が刺した女性が、先程息を引き取った。これで18人だ」

「18もの愛を消し去った。とりあえずは上出来かな」

「……いかれてやがる」

「自分はただ、愛に絶望しただけの哀れな人間ですよ」

「覚悟しておけよ。死刑は免れない」

「嬉しいな」

「自殺願望なら、迷惑かけずに勝手に死んでろ……」


 刑事にあるまじき発言ではあるが、犯人のあまりにも身勝手な言い分にそう悪態をつかずにはいられなかった。

 



「被害者の身元は割れたのか?」


 別の者に取り調べを交代した中年の刑事は、喫煙所で後輩の刑事にそう尋ねる。

 一服したことで、先程までよりも冷静に事件と向き合えていた。


譜久村ふくむらあい。市内在住の女子大生です。やはり今回も、『愛』という名の女性ですね」

「最初の被害者、九頭竜くずりゅうあいに始まる、『愛』という名の女性だけを狙った連続殺人か」


 一連の18件の連続殺人。被害者は年齢や職業もバラバラで、唯一の共通点は全員が「愛」という名の女性だったということだけ。

 最初の被害者「九頭竜愛」以外に被疑者と接点のある者はおらず。一連の犯行は「愛」という名の女性だけを狙った、限定的な無差別殺人とでも呼ぶべきものである。


「正直意味が分かりません。最初の犯行に関しては、被害者との交際上のトラブルという一応の動機が存在していますが、それ以降の犯行は一体……」

「あくまでも想像の域は出ないが、被疑者ひぎしゃは愛に絶望し、愛する者を手にかけたことで、完全に思考がおかしくなってしまったのかもな。感情としての愛と、人名としての愛の区別もつかなくなる程に。それなら、『私の手で愛を消し去ってしまおうと思った』という発言にも一応の説明はつく。長年刑事をやっていると、こういう極端な思考に走る犯人には時々出会うものだ」

「愛を消し去るイコール、愛という名の女性を殺す行為だった? だとすれば、相当いかれていますね」

「おまけに、自分までもがその対象ときた。本当にいかれてやがる」

「どういうことですか?」

「気づかなかったのか? 被疑者の名前を見てみろ」

「そういえば……」


 被疑者の氏名は「梅雨原つゆはらあい」。

 彼女もまた、愛という名を持つ女性の1人である。


「梅雨原は死刑を免れない。奴の愛を消し去るという行為は、きっとそこで終わりを迎えるんだろうな」




 了

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