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さよならの儀式

作者: よりこ

「肌寒い風が吹きつつも、暖かい日差しが私たちを照らす、今日この日、私たちは卒業します。」




 卒業式の答辞。


 おきまりの言葉。

 普段は使わないような妙に堅苦しい言葉。

 それらすべてがなぜかとても好きだった。



 卒業生は皆自分が話しているわけでもないのに、答辞を聞いて自分の決意の言葉、お別れの言葉だという錯覚をする。

 自分では読んでいない。けれども、自分たちの代表が読んでいる。

 自分と同じ3年間を過ごした人が答辞を読んでいる。

 私たちは明日からの日々に期待を抱き、がんばっていこうと決意を固める。

 あの形式じみた文章と言葉使いのどんなところにそのような気持ちを抱かせられるのか疑問に思うこともあるが、そんなところがとても気に入った。


 卒業式は嫌い。

 お別れの式だから。

 できるのならば参加したくない。

 今日で終わりだということを嫌というほど突きつけられる式だから。


 でも、そこで読まれる答辞、送辞は聞いていたいと思った。




 美優は答辞の言葉に耳を傾けながら小さく周囲を見渡した。

 周りの人は泣いている人が多かった。少し顔を前に出してのぞいてみると、気のせいだろうか。

 私たちの担任の先生まで泣いている気がする。



 美優は一つ小さく息を吐き、姿勢を元に戻した。


 卒業式では、泣きたくない。

 私がずっと思っていたことだった。

 元々私はとても泣き虫だと自覚している。だからこそ、卒業式では泣かないときめていた。


 そんなにすごく楽しかったクラスでも、学生生活でもなかったと思う。


 それでも今まで嫌いだった人でも今日が終わったら、式が終わって教室へ戻って先生の話が終わったら、もう会えなくなってしまうのだ。

 もしかしたら、同窓会などで会えるかもしれない。個人的に仲のよかった友達とは連絡を取り続けるつもりでいる。

 だけど、もうこのクラスのメンバーでは、この学年では、全員がそろってあうことなどできないのだ。

 そんなごく当たり前のことが、とてつもなく悲しい。



 だから、私は泣かない。

 泣き出したら、きっと止まらないだろうから。

 そうしたら、目が涙でゆがんでよく見られなくなってしまう。

 今日のうちに、最後にすこしだけでもこのクラスを、この学年を、この学校を目に焼き付けておきたい。


 美優は今にも表面張力に負けて目から落ちてきそうな涙を今日で最後の仕事となる、制服の袖で軽く拭いて答辞に耳を傾けた。


読んでいただき、ありがとうございます。

誤字・脱字、教えていただけたら嬉しいです。

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