10日目(23)―互いの恋
もう、ミーナだってお風呂には慣れたはずなのに、いつも私と一緒に入ろうとする。
「そろそろ、一人で入ってみない?」
「えー?やだよ、そんなの……」
そうやって反抗するのは猫だったときから相変わらずだけど、今は、水が恐いからじゃなくて、私と一緒がいいから。そう教えてくれたのは、ほかでもないミーナから。
「カスミだって、わたしと一緒がいいでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「じゃあ、決まりだね」
結局、そうやって押し切られてしまう。それだけ、お互いが、お互いのこと、好きってこと。……なんて考えて、頬が熱くなる。
今日は、下着と一緒に寝間着を持って、お風呂場まで降りる。
やっぱり、一緒にお風呂に入るのも、やめられない。一糸まとわぬ白くて柔らかい肌も、普段見えないようなとこも、お風呂でなら見られるから。
「今日は、ちょっと疲れちゃったね」
「いっぱい歩いたもんね、今日は、ゆっくり浸かろっか」
朝、選びっこした服を着替えたみたいに、わざと服を脱ぐとこを見ないで、お風呂場に入る。
二人だとちょっと狭い湯船だと、自然に、二人の距離が近づく。
「カスミ、ぎゅーってして?」
「え、いいけど……」
ミーナの体が出来るだけお湯に浸かるように、わたしの体を、顔が水に付かない程度に倒す。
でも、こうすると、顔が近くて。
「キスしたく、なっちゃうでしょ」
「そ、そうだね……」
想ったこと、先に言われちゃう。ミーナに、心の中の何もかも知られてるような気分で。
「わたしも、おんなじだから、わかるよ」
言われた言葉に、胸の奥のときめきが止まらなくなる。ミーナと、お揃い、とかおんなじ、って言葉に、私は弱くなっている。それは、一緒の時間を、いっぱい過ごしたってことで、お互いを想いあってるって証だから。
……ちゅっ。
キスの障害なんて、今はどこにもない。二人きりの甘い時間で、思いきりお互いを恋しあう。
お風呂の熱と、伝わる熱でのぼせそうになって、白旗を揚げる代わりに抱き合ってた腕で背中を軽く叩く。
「ぷはぁ、……ミーナってば、今日は積極的だね……」
「カスミだって、そうでしょ?……」
デートしたせいで、気持ちが、もっともっとミーナのほうに向いていって、……ミーナも、私のことでいっぱいになっていく。
「そうかもね……、ミーナのこと、もっと、好きになっちゃったもん」
「もう、カスミってば……っ」
口に出してしまった恥ずかしい言葉で、ミーナは私にほおずりしてくる。
ああ、もう、かわいい、好き。いくら言葉にしても、足りないくらいの想いが心に溢れて。
ほおずりしてくれたミーナのほっぺに、そっと唇を落とす。
「そろそろ、のぼせちゃいそうだし、シャワーにしよっか」
「うん、体、熱くなっちゃったもんね」
シャワーのお湯を出して、お湯が温まりきるまで、ちょっとした相談をする。
「洗いっこなんてしたら、のぼせて倒れちゃいそうだよね」
「それに、今だと、そんなことしたら、止まんなくなっちゃうでしょ?」
「それもそうだね、今日は背中流しっこするくらいにしよっか」
「わかってるよ」
でも、よく考えたら、背中を流し合うのだって、他の人からみたら不思議がられるんだろうな。
私たちの関係自体が、二人だけの秘密にしないといけないようなものだから、と言われればそうなんだろうけど。
「汗かいただろうし、いっぱい洗ってあげなきゃね」
「う、うん……、よろしくね、カスミ」
昨日は私からだったから、今日はミーナから。そんなことを、自然に考えてしまう。
シャワーを止めると、二人の立てる音が浴室によく響く。泡を立てる音も、それがミーナの肌を撫でる音も、不意に、ミーナがか細く出した甘い声も。
無防備な肌に、私の撫でた跡が残るというのが、背徳感とか、独占欲とか、そんな気持ちを満たして、体が武者震いでもしてるみたいにゾクゾクする。
シャワーで泡を落とすのが、何かもったいないような気さえする。でも。
「カスミ、まだかかる?」
「ううん、もうちょっとだけ」
これ以上こうしてると、ミーナに変な事覚えさせてしまいそう。私が、ミーナにおんなじことされたら、きっとドキドキしすぎて壊れちゃいそうだから。
シャワーのお湯で、背中の泡を流していく。背中だけなのに、相変わらずミーナは両目をきつく閉じている。
本当に、かわいいんだから、もう。二人だけの事、したいって思う心を、必死で抑える。
「はい、終わったよ」
「じゃあ、次わたしの番だね、……カスミ、座って?」
「もう、わかってるよ」
今度は、ミーナから。背後から何かされるってだけでドキドキするのに、それが、恋人の手で朝しく肌を撫でられるんだから、もう心臓が破裂しちゃいそう。
「ねえ、まだ終わらないの?」
「もう、まだ始めたばっかりだよ?」
これ以上されたら、ドキドキでどうにかなっちゃう。その気持ちを必死でこらえて、……破裂しそうになる寸前で、ミーナの手が離れる。
「すっごいドキドキしてるの、後ろからでもわかったよ」
シャワーのお湯と一緒に投げかけられる言葉は、胸の中に甘く突き刺さる。
「そうだよ……、駄目?」
「だめじゃないよ、すっごく、かわいくて、……大好き」
泡が流れきったのを背中の感触で確認して、ミーナのほうを振り向く。
溢れるくらいの気持ちの伝え方は、もうわかってる。
重ねるだけのキスの一瞬で蕩けてく気持ちは、きっとミーナが私のことを深く好きでいてくれるから。
2000字使ってるとかほぼ2話分じゃん……・
残り2話ですが、もう少しだけうちの子たちをよろしくお願いします。