10日目(21)―揺れる心
家族みんなでご飯を食べて、今日のデートのことを聞かれる。
怪しまれない程度はぐらかして話したのは、二人の関係を怪しまれないようにするため。
いつもお母さんが作ってくれる料理はおいしいけど、……なんか物足りないような気がする。お昼に、二人で食べたご飯のほうが、ずっとおいしかったような。
クエスチョンマークが頭の中でいっぱい浮かんでいて、もやもやとしながら食べ終わる。
「ごちそうさま、おいしかったよ」
その言葉も、とってつけたような言い訳みたいになる。
お粗末様、と言われるのが、ちょっと疚しいって思う。
二人で部屋に戻ったときも、頭に浮かんだ疑問は離れてくれなくて。
「そういえば、もうテスト近いし、勉強しなきゃだね」
「えー?」
ストーブをつけたミーナが、私をベッドのほうに引っ張っていくのを慌てて止める。
「えーって、やんなきゃ駄目なんだよ?」
「わかってるけど……」
無理やりみたいに、ミーナを机に向かわせる。
その前に、ベッドに脱ぎ捨てたコートをハンガーにかけて、クローゼットにしまう。
「そういえば、テストは大変だって言ってたね」
「そうだよ?すっごく疲れるんだから……っ」
机に向かって、かりかりとペンを走らせる音。背中合わせだから、きっと真剣な、きりっとした顔が見れないのは、ちょっと寂しいような気分。
「いっぱいがんばるから、……ごほうび、ちょうだい?」
何が欲しいのかなんてとっくに分かってて、それに逆らうことなんてできない。
「うん、わかった、……じゃあ、お風呂入るまで頑張ろっか」
「うんっ」
それからは、ストーブの音と、お互いの吐息と、ペンの音くらいしか聞こえなくなる。
背中のあたりが張ってきて、体を伸ばすと、ミーナの手がぶつかって心臓がきゅって鳴る。ふと、時計を見ると、もう部屋に戻ってから三十分以上も経っている。
ミーナと二人でいるだけで、心の振れ幅は簡単に大きくなる。
「んー、もういい?」
「あと三十分くらいがんばろ?そしたら、ごほうびいっぱいあげるから……つ」
ああ、もう、それを言うだけで、顔が熱くなる。「ごほうび」の中身なんて、私とミーナの頭の中では簡単におんなじものが浮かんでる。
「わかった、頑張るね」
ミーナの声も、ちょっとだけ、照れてるみたいに聞こえる。
背中合わせの、微妙な距離感で交わされる言葉に、心がくすぐられる。
また、ペンを走らせる音が、静かな部屋に、背中の向こう側で聞こえる。
これが済んだら、いっぱいミーナに甘えてもらえる。その気持ちは、やる気を足すのには十分だった。
これ100話いくんじゃないだろうか