10日目(15)―恋のドキドキ
90話です。
頼んでる料理が来るまで、二人でとりとめのない話をする。
「今日の映画、楽しみだね」
「うん、すっごく人気みたいだし、どんなんだろうね」
「すっごく、面白いんだろうなぁ……」
「そうだといいねぇ、このために来たみたいなものだもん」
映画を見るって口実でデートしてるのに、それが面白くなかったら楽しみがちょっと減っちゃう。……まあ、今まででも、十分、楽しいんだけども。
「そういえば、……今日、私と一緒で楽しい?」
「うん、すっごく!」
「よかった……、私も、だよ」
そんなことを話してると、頼んでた料理が来る。私のだけ来たことに、不機嫌そうにミーナがほっぺを膨らます。そんな顔を見てたいって気持ちと、先に食べたら悪いなって気持ちが浮かんで、ミーナの分が来るまで待つことにする。
ほんのちょっとだけ待って、ミーナの分も来る。さっきまでのむっとした顔が、急ににっこりと笑ってるのが、わかりやすくてかわいい。
「じゃあ、食べよっか」
「うん、そうだね」
ミーナの分のとんかつにソースをかけてあげてから、一緒に食べる手を進めていく。私よりも箸を進める手が早いミーナに、ちょっと聞いてみる
「どう、おいしい?」
「うん、おいしいよ?」
「そっか、よかったね」
「じゃあ、食べてみる?」
急にそんなこと言われても、困っちゃう。
「カスミの分、ちょっともらうから、先にそのお返し」
「ん、そっか」
かつを一切れ挟んで、私の方に差し出してくる箸を、ちょっとだけ前かがみになって受け止めて。
それだけなのに、なぜかキスをしたときくらいドキドキしちゃう。そっちのほうが、ずっとずっと深いことなのに。
「……どうだった?」
「うん、おいしい」
「へへ、よかったぁ……っ」
甘い声で、そんなこと言わないで。胸の奥が、もっともっと高く跳ねちゃうから。
「じゃあ、……今度は、私の番だね」
「うん、……ちょうだい?」
何でだろう、その言葉で、ほっぺが熱くなる。
零れないくらいにオムライスをスプーン一杯に掬って、ミーナのほうに差し出す。それを口に含むとこは、なぜか見れなくて。
スプーンに触れた感触で、ミーナがそれを食べたって気づく。
「どう?おいしい?」
「すっごく、おいしかったよ?」
「それなら、よかった……」
ミーナの口から引き戻したスプーン。それをそのまま使い続けるってことを意識しただけで、ものすごく、体が熱くなる。
オムライスを食べる一口ごとに、ミーナとキスしてるって錯覚しちゃうから。
普段、二人でキスするときは、誰にも見られないとこでだけど、今は、二人きりじゃないってわかるから。
食べ薦める手が、おぼつかなくなっていく。胸の鼓動が、どんどん激しくなっていく。
「大丈夫?もうお腹いっぱいになっちゃった?」
「ううん、そうじゃないよ……」
携帯のバックライトをつけると、ここに着いてから、1時間近く経っていて。
ミーナの食べてたお膳をみると、もう無くなっていた。
「急ぐから、ちょっと待っててね?」
「じゃあ、トイレ行ってくるから」
「うん、わかった」
そろそろ行かないと、映画、楽しめなくなっちゃう。
ゆっくりと息をしてから、意を決してオムライスを食べきる。
「ただいま、……って、もう食べ終わったんだね」
「おかえり、早くレジ行って、映画館のほう戻ろ?」
「わかった」
今までとおんなじように、一人ずつのお金で払って、店を出る。
映画館まで行く道は、やっぱり自然と手を繋いでいた。
完結予定日まであと1週間。




