3日目(1)―火照る体
目覚ましの音で、目が覚める。
重たい瞼を開けると、ミーナの顔がすぐ近く。
ミーナに抱き着かれて、そのまま寝ちゃったんだ。
客観が働いて、その事実になぜかドキっとする。
ミーナの手は、背中に回されたままだった。
私の手もミーナのことを抱き寄せていたことが、腕に感じる重みと温もりでわかる。
やれやれ、ミーナが起きるまで、私も起きれないや。
ミーナと私の周りだけ、暖かい空気が包んでるような気がする。
寝なおそうとして、空気が揺れた。ミーナの瞼がピクリと動く。
「カスミ……?」
ミーナも目を覚ましたみたいだ。丸くて、潤んだ瞳が間近に見えて、綺麗だな、と不意に思う。
「おはよう、ミーナ」
「ん、おはよぉ……っ」
お互い目はとっくに覚めてるのに、なぜか抱き合う腕は離れようとしない。
「今日学校無いし、もうちょっと寝てよ?」
そういうミーナの甘い誘いに、乗ってしまいそうになる私がいる。
ちらりと時計を見やる。いつもならもう起きてる時間。
今日は土曜日で休みだし、何より暖かくて。
「んぅ、……だめだって、ミーナぁ……っ」
言葉とは裏腹に、体はもっとミーナの温もりで夢を見たがる。
「もー、冗談だよ、一緒に起きよ?」
ほっとして、なぜか体がうまく動かない。
「もー、体ぽかぽかだね、カスミ」
「うん、ちょっと……」
体の奥が火照る感覚。ミーナと二人でいると、いつもドキドキしてばかりな気がする。
不意に、ミーナの腕がきつくなる。体が密着して、熱いほど暖かくなって。
「どう、目、覚めた?」
胸の鼓動が激しくなって、眠るどころじゃなくなっていた。
「うん、ありがと」
言葉は、そんな心を隠すほどあっさりと流れる。
「どういたしまして、カスミ」
抱き合ったまま、身を起こす。こんなに胸の奥がおかしくなるのに、ミーナから離れるなんてできない私。
どうしたのかな、私。
まるで、――ミーナに恋してるみたいな。
それを確かめるように、胸の中で、そっとつぶやいてみる。
ミーナ、好き。
たった5文字の言葉。それだけで、胸がきゅっと痛む。
でも、その痛みの中に、『気持ちいい』という感情が混じって、ますます私の気持ちがわからなくなる。
ミーナが猫だったときは、私とミーナの関係は、ただのペットと飼い主だったのに。
今のミーナと私は、友達でも、家族でも、恋人でもない、宙ぶらりんの距離。
「あら、美奈ちゃん、お誕生日おめでとー」
「ありがとう、ママ」
昨日の夜、そんなことを言ったはずなのに、もう忘れていた。
「ごめんね、ミーナ」
「ううん、いいよ」
二人にしか聞こえない会話。やっぱりミーナは優しくて、その優しさに溺れてしまいそうになる。
ミーナ、かわいい、好き。
心の中で、何かが溢れそうになる。
私、一体どうしちゃったんだろう。
誰にも聞けない、自分にもわからない問題。
答えは、どうやって出てきそうになかった。