10日目(5)―愛しい姿
もう一回唇を交わしてから、なんとなく抱いてた腕を離して、上着を一緒に着る。
ミーナがベージュのダッフルコートを着てる姿に、なんだか既視感を覚えて、ちょっとだけ考えて、ようやく記憶の隅に引っかかる。
「今のミーナ、ちょこっと猫の時と似てるな」
「えー?そんなことないって……」
案の定、ほっぺを膨らます姿が、すっごくかわいくて。猫だったときのミーナと、今のミーナのかわいいとこ、全部集めてきたみたいな感じ。
「冗談だよ、でも、今のミーナ、すっごくかわいいっ」
「もう……カスミだって、すっごくかわいいよ?」
そんな言い合いも、ただ胸を甘い気持ちで満たすことにしかならない。胸の中がどんどん熱くなって、それは全部ミーナのことが『好き』ってことで。
言葉で伝えようとすると、溢れて言葉にならない気持ち。伝えかたはもう、言わなくたって分かってる。
……ちゅっ。
ずっとずっと前から、恋人だったんじゃないかってくらい、自然と心が繋がる。きっと、いつも一緒にいたから。
「また、キスしちゃったね……」
「もー、デート行くんじゃなかったの?」
「ごめんね?だって、かわいいんだもん、ミーナが」
「むぅ……っ」
怒ったような声を出して、でも私が抱いた手からは離れようとしなくて、逆に、抱きしめる手が、ぎゅってきつくなる。
赤くなった顔で、潤んだ目でわたしを見上げてくる。そんなにかわいいとこ、見せないでよ。だって、これ以上好きになったら、私はどうかしちゃいそうだから。
「そんなこと言うなんて、ずるいよ……っ」
「そっちこそ、……そんなにかわいくなるなんて、反則だよ……っ」
そんな事言いあいながら、自然と重なった唇は、……やっぱり、まだ恋してる証。心の中で膨らんだ気持ちは、もうちょっとだけそうやって繋がりたくなる。
「んっ……、もう一回だけなら、いい……?」
「い、いいよ……?」
そう思っちゃうのは、ミーナだって同じみたいで。交わされたキスが、体も心も、ミーナと一緒になっていくような感覚。
「んもう、早くデート行こうよっ」
その声に、そばにあったスマホを見ると、もう九時近い時間で。
せっかく学校がある日と同じ時間に起きたのに、これじゃあ意味が無くなっちゃう。
「そ、そうだね、行こっか」
急かされた手に引っ張られるように、色違いのリュックを背負って、駆け降りるみたいに階段を下りる。
ドタドタという音に気づいたお母さんに、行ってきますを言うのすら煩わしくなる。
「行ってくるねっ」
「はいはい、行ってらっしゃい」
そんなやりとりをする声を背中で聞きながら、慌ただしく家を出る。
これから、どんなに楽しいことが待ってるのかな。胸の中のワクワクする気持ちは、どうやっても抑えられなかった。
80話ですね。そんで前回で99999字にする謎調整いれたので100000万字も到達です。