2日目(3)―温もりに溶けて
ミーナが猫だったとき、私の部屋にずっといたせいで、今も帰ったら部屋にずっといる。
ベッドに一緒に座る。そのときからの、私とミーナの定位置。
今と違うのは、ミーナがいたのが、私の隣じゃなくて、膝の上だったことくらい。
どうしてそうだったのかミーナに訊いてみたら、「カスミの部屋が一番落ち着くの」と言い訳のように言われて、なぜか胸の奥が跳ねる。
「私も、……ミーナと一緒のときが一番落ち着くよ?」
言ってみて、頬が熱くなるのが止まらない。
「もう、かわいいっ!」
お腹のあたりに頬すりされる。ミーナが、この姿になる前みたいに。
思わず頭を撫でていると、目が合ってしまった。
「ごめんね、なんかそうされるとつい……」
「ううん、いいよ?ていうか」
カスミに、元気だして欲しかったもん。
さらりとそんなこと言わないでよ、ミーナ。
胸の奥が、甘いくらいきゅっと痛むから。
いつの間にか、抱き寄せられる。目線が同じになって、見つめ合う顔が近い。
「ねえ、……最近様子変なの、何で?」
じっと見つめるミーナの目は、心配する雰囲気を帯びている。
逃げようともがこうとして、意外と強いミーナと腕に阻まれる。
「ちゃんと言ってくれないと、キスしちゃうよ?」
真剣そのものなミーナに、心ももがくのをやめる。
「あのね、……私、変なの。学校だと、ミーナのことが気になってしょうがないの」
言えなかったのは、ミーナに不審がられるのが恐かったから。
でも、それがミーナを心配させて、もしかしたら傷つけてしまったのかもしれない。
なら、ちゃんと言ってしまおう。そう、思えた。
ミーナが他の誰かと話してると、おかしな気分になってしまうこと。
二人きりじゃないと、全然心が落ち着かないこと。
全部言って、胸の奥に詰まっていたものが、喪失感すら感じるくらいぽろぽろと取れていく。
「もー、……私はいつでも、カスミの傍にいるよ?」
背中に回されたミーナの右手が、頭をぽんぽんと優しく触れてくる。
撫でる手つきも、声も、心も優しい。
思わず、ミーナの体を抱き返す。腕に感じる微かな柔らかい温もりと、胸同士が当たるふにふにとした感触。
近づいた顔に、条件反射で目を閉じる。
「カスミ、……キスしても、いい?」
一瞬、目を開ける。ミーナの顔が、さっきより近づいていて。
「うん、……いいよ、ミーナ」
もう一回目を閉じる。ほんの少しだけ、首を傾ける。
その瞬間から、時間がゆっくりと進んだような気がする。
永遠にも思える時間、ミーナの唇を待って。
私がしたときよりもちょっとだけ長く触れただけのミーナのキスが、ずっと続くような気さえした。
目を開けると、少し潤んだミーナの瞳と向き合った。
「今の、誓いのキスだから」
「えっ……?」
そ、それって、まるで、結婚するみたいとか考えて、体中が火照っていく。
ミーナの言葉に、どうして、心臓が壊れちゃいそうなくらいドキドキしちゃうんだろう。気持ちいいとか、思ってしまうくらい。
「……なんてね、冗談だよ」
言われた言葉に、ちょっと残念だと思う私がいた。
「……でも、わたしは、ずっとカスミのそばにいるよ?」
「うん、、ありがと、ミーナ」
好きって言おうとして、やめた。自分でもよくわからない心の中にある何かが、あふれ出してしまいそうになったから。
代わりに、ミーナのこと、もっとぎゅっと抱きしめる。
あったかくて、落ち着く。このままずっとこうしていたかったけど、お母さんのご飯ができたわよ、と言う声で離れた。