8日目(12)―幸せのかけら
「さすがに、ちょっと暑いね……」
あったかいのが大好きなはずのミーナが、音を上げたように言う。
「ちょっと、ストーブ消してくるね……」
点けっぱなしのストーブの熱気を、ミーナに温められた熱よりも強く感じる。
ストーブを消しても、暑すぎるくらいに温められた部屋はなかなか冷めてくれない。
「マシュマロもまだまだいっぱいあるし、どうしよっか」
ちょっと小さ目の袋を買ったって言っても、20個くらいは軽くある。一つずつでこんなに時間を掛けてたら、お風呂までに間に合わない。
「もう、普通に食べよっか」
「……そうだね」
何の変哲のないお菓子が、二人で食べると、甘い幸せのかけらになる。
キスしそうになる衝動を紛らわそうと、ずっと口の中のマシュマロの味を考える。ふわふわで、甘くて、おいしくて。
……でも、やっぱりミーナのほうが、甘くて、熱くて、好き。
逆効果にしかならなくて、ミーナのほうに顔を寄せる。
「もう……今日のカスミ、本当に甘えたさんだね」
「仕方ないでしょ?……そういうこと、したくなっちゃうんだもん」
だって、好きだから。溢れそうなくらいの気持ちを、抱き留めてくれるってわかっちゃったから。
呆れたような顔をして、でもミーナだってまんざらじゃないって気づいてしまう。
マシュマロをつまんでたミーナの手が止まる。顔を見合わせて、そこから先は条件反射みたいに体が動いてた。
唇が触れた一瞬、胸がきゅんと鳴る。
恋って不思議だ。唇を重ねるだけで、ドキドキして、ほっとして、幸せになれるんだから。
「……これでいい?」
「うん、ありがと。……大好き」
『好き』って言葉に、自然に重なるもう一回。
何にも代えられない幸せが、胸を満たす。
周りの空気は熱くてしょうがないのに、ミーナの温もりは感じていたい。矛盾してる気持ちは、恋する気持ちのほうがずっとずっと強かった。
もっと、ミーナにあったかくされたい。逸る気持ちが、肩が触れ合うくらい体を近づけさせる。甘い感情に、マシュマロのふわふわとした甘さがちょうどいい。
いつの間にかマシュマロの袋は空っぽになっていて、自分でもびっくりする。
「もう、なくなっちゃったね」
「ほんとだねぇ」
何かがおかしくて、見つめ合ってくすくすと笑う。
ミーナの緩み切った、幸せそうな顔に、私も、いっぱい幸せになる。
「いっぱい食べちゃったから、太っちゃうかな……」
一つだけ、心配ごとがあるとするなら。普段あんまり食べないのに、こんなに食べて体重は大丈夫なのかな。
「そんなカスミでも、私は大好きだよ?」
「そうじゃなくて!太るのは絶対嫌なの!」
でも、その言葉は素直に嬉しくて、照れ隠しでつい声が荒くなる。
「大丈夫だって、いっぱいキスしたし、……足りないなら、いっぱいするよ?」
熱くなったら、脂肪も燃えてくれるよね。それに、……もっと、ミーナとキスしてたい。
「じゃあ、お願い。……まだ、全然足らないや」
「うん、いいよ?」
その言葉が、深くて、溶け合うようなキスの合図で。
お母さんの私たちを呼ぶ声が聞こえるまで、その口づけは終わらなかった。