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1日目(3)―初めての

 家に帰って、ご飯も食べて、復習も済ませた。

 猫のときみたいに水が苦手なミーナにせがまれて、一緒にお風呂に入る。

 シャワーが恐くて、「猫だったときなら毛づくろいだけでよかったのに」とぼやくミーナがおかしかった。


 いつもよりずっと長かったお風呂が済んで、二人の部屋で、いろんな事を聞く。

 気になっていた『猫又様』という存在のことも、ミーナがどうしてここにいて、どういう存在になっているのかも。


「それで、『猫又様』ってどういうものなの?」

「ネコマタ様は、猫の神様なんだよ?」


 一緒にベッドに腰掛けながら、猫だったときから大好きだったクッションを抱きかかえてミーナが言う。

 どうやら、猫が1000年生きて神様になったのが『猫又様』というものだという。

 猫又という妖怪にそっくりだな、と聞いてて思った。

 ずっと神様の家をネズミから守ってきたおかげで、割といろんな力を貰っているという話らしい。


「それで、どうして人に生まれ変わってきたの?」

「わたしが車にぶつかって、目が覚めたら白い世界で、もう死んじゃったのかって気づいたの。でもまだカスミといたいって思ったら、ネコマタ様の声がしたの」


『香澄ちゃんと、まだいたいの?』

 その声で、ミーナはそれが猫又様だとわかったという。

 そして、ミーナは大きく頷いたという。


「それで、私のこと、カスミの家族にしてくれたんだ」


 ミーナはここの家の養子ということになって、私はミーナの義理の姉、ということになっているらしい。


「そうなんだ、本当によかったよぉ……っ」


 つい、ミーナのことを抱きしめてしまう。苦しいよ、と呻くミーナの声で慌てて離れる。


「もー、人の暮らしに慣れるとこまで、1から全部ネコマタ様に教わったんだからー……」


 歩きかたから日本語、果ては私と同じ高校2年までの勉強までを全て叩き込まれたという。


「もー、頭どうにかなりそうだったよぉ……」


 それをたった一晩で済ませてしまったというのは、凄いと思うけど。


「そ、そういえば、キスしてくれないの?」

「待ってっ、いきなり言わないでっ!」


 ミーナと一緒にいるためとはいえ、キスするなんてどきどきしすぎて考えるだけで心臓が破裂しそう。

 それにドラマとか小説とかでするのは男の人と女の人だし、女同士でするものなのかもわからないし。


「じゃあ、……わたしがいなくなってもいいの?」

「それはイヤっ!!!」


 ミーナがいなくなったら、――それを考えただけで涙が溢れてしまいそうになる。

 思わずミーナにすがると、お気に入りのクッションを放して私を抱きしめてくれる。


「じゃあ、……キス、しよ?」


 ミーナの温もりを感じながらずっとずっと考えて、――ようやく決心がつく。

 私の『初めて』、ミーナのためにあげようって。


「……うんっ」


 見つめ合った瞳が近くて、胸がきゅっと縮むような感覚。


「ミーナ、目、閉じて?」


 ぎゅっと目をつぶるミーナの顔をじっと見つめる。

 猫みたいな目をしてて、丸っこい顔に、かわいらしい顔して。

 リップを塗ってるわけでもないのに紅いミーナの唇に、私のそれを重ねるという事に、抱いている『好き』のかたちが揺らいでいく気がする。まだ、私の『好き』が、どういうものかもわからないのに。


 そっと、顔を近づけていく。度々感じた落ち着くようなどきどきするような香りが、その一瞬一瞬に濃くなっていく。

 目を閉じて、少しだけ首を傾げる。

 一瞬、唇が触れ合って、慌てて離す。


 「ファーストキスはレモンの味」とは聞くけれど、その瞬間頭の中が真っ白になって、何も考えられなかった。

 その一瞬で、胸が壊れてしまいそうなくらい高鳴る。でも、その感覚すら気持ちよく思えてしまうような、不思議な感情が芽生えていく。

初めて感じた気持ちに、自分でも戸惑う。


「カスミ、もう、いい?」

「う、うん……」


 喉がカラカラになって、声がかすれるほど緊張していた。


「キスって、こんなにドキドキするんだね」


 不思議げに言ったミーナの声に、少しほっとする。


「私、もう、胸が壊れちゃいそう……っ」


「もう、大丈夫?」


 軽く抱くミーナの腕は、唇が触れたときと違って落ち着く。

 たった1回のキスで疲れてしまった私は、そのままミーナに体を預けていた。

今回ちょっと長いのは百合ちゅっちゅがあったからとかじゃないよ(汗)

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