1日目(2)―渦巻く気持ち
「どうしたの、顔真っ赤だよ?」
うつむいた顔をまじまじと見つめられ、火照った顔がさらに熱くなっていきそう。
整った顔立ちに、少し茶色がかった肩に届かない髪。
猫だったときのように鋭い目で見つめるミーナに動揺してしまう。
「あ、あのね、そういうのって恋人同士でするものだから……」
「『こいびと』って、何?」
ええっと、と口ごもる。私にとってそう言えた人は、もう高校が分かれて自然消滅してしまったから。
「んー……お互いに相手のことが好きで、ずっと一緒にいたいっっていうことじゃないかなぁ……」
「じゃあ、わたしたちもそうでしょ?」
そう言うミーナの言葉に、意表を衝かれる。
「カスミだって、私のこと好きでしょ?一緒にいたいでしょ?」
「そ、そうだけどぉ……っ」
ミーナのことは好きだし、一緒にいたい。でも、きっとそれは、恋とかじゃなくて。
そのはずなのに、どうしてこんなに胸の奥がおかしなくらいドキドキしてるんだろう。
「私も、一緒だよ?だから、大丈夫でしょ?」
「うぅ……、心の準備できないよ……」
ふと、時計を見やると、もうそろそろ学校に行かないといけない時間。
「あ、ミーナ、もう学校行かなきゃ!」
財布とスマホを持って、慌てて玄関を出る。
足音で、ミーナも後を追いかけてるのがわかる。猫だったときは、足音なんて全然わからなかったのにな。
でも、一応、一回振り向いて、ミーナの手を握る。
遅刻を免れる時間には間に合って、昇降口に入ろうとして、そういえばミーナのクラスはどこなのか知らなかった。
「ミーナってクラスどこだっけ?」
「カスミと同じだよ?」
他の人も多かったから言わなかっただけで、これもきっと猫又様というのの計らいなのだろう。
同じ苗字だからかすぐ下の靴箱には、新品というわけではなく、1年半くらい使った私のと変わらないくらい使い込んだような上履き。
クラスでも転校生とかじゃなくて、最初から窓際の一番後ろにいた私の隣に席があって。
まるで、ミーナは、最初から、『真部美奈』として存在していたみたいに。
授業中もしっかりノートを取ってたり、休み時間でも同じクラスの子とおしゃべりしたり。
ミーナが猫だったことは、私とミーナにしかわからないんじゃないかってくらい、ミーナはクラスに溶け込んでいた。
それにほっとして、でも、胸の奥はミーナを見るたびにざわめくのがわかる。
どうして、なんだろう。初めて学校でミーナといるからなのかな。
ミーナが猫だったこと、気づかれないか不安だからなのかな。
それとも、ミーナとキスすることに、まだドキドキしてるからなのかな。
頭がそんなことでいっぱいになって、ぼーっとしたまま時間は過ぎていく。
帰りのホームルームが終わって、ミーナに声をかけられる。
「どうしたの?帰ろ?」
「う、うん、ごめん……」
行きとは逆で、ミーナに手を引っ張られるように家路を向かう。
私、いったい、どうしちゃったんだろう。
ミーナ(人間)と出合った長い1日ははまだまだ終わらない。