5日目(2)―向き合う想いは
ブクマが来るたび私の心は本当に幸せになれます。
今作でこれまで37回。これからももっといい書き物をしていきたいです。
「香澄ちゃん、起きてる?」
ミーナじゃない、優しい声にはっと声の方を向く。
保健室の先生と、目が合う。その視線が、一瞬ミーナと重なって、ドキっとする。
「え、あ、はいっ」
「もう、保健室じゃ静かにね?」
「はい……、すいません」
思わず、大声が出てしまっていた。保健室だってこと、忘れて。
「いいよ、びっくりさせちゃったもんね。……でも、一個だけ、聞きたいこと、あるんだ」
「……何ですか?」
先生だし、それにさっき迷惑かけちゃったし、断るわけにもいかない。
「香澄ちゃんって、好きな人、いるでしょ?」
図星すぎて、何も言えなくなる。
その無言を肯定と捉えたのか、先生は納得する。
「そうだよね、じゃないと、こんなに様子おかしくならないもん」
「そんなに、おかしかったですか……?」
「美奈ちゃん、すっごく心配してたよ?よっぽど大好きなんだね、あなたみたいに」
最後の一言で、寒気がした。
心の中の気持ち、全部気づかれてるような気がする。
「な、……なんで、そんなこと」
「美奈ちゃんと来たとき、すっごく美奈ちゃんのこと意識してたでしょ?」
そんなこと、気づかれるくらい、私、おかしくなってたのかな。
頬が熱くなる。溢れそうな思いも、気づかれてるんじゃないかって怖くなる。
「私でいいなら、話聞くよ?話したくないならいいけど」
誰にも言えなかった、抱え込むには大きすぎた思い。
きっと、これは、それに気づいた先生がくれた助け舟。
「先生、じゃあ、この話、誰にもしないでくれますか?」
「もちろん」
胸を張る先生。ようやく、想いを見つめる勇気ができた。……ほんのちょっとだけだけど。
「私、ミーナ、……美奈のこと、最初は普通に大切な家族だって思ってたんです」
この世界でのミーナが『真部美菜』という一人の女の子だということも、うっかり忘れそうになっていた。
まさか、ミーナが猫だったなんて言えない。だって、こんな事を素直に信じられるのは、世界中で私とミーナだけだから。
あ、……ミーナとキスしたことの話、どう説明すればいいんだろう。ミーナのこと、こんなに好きになってしまったのは、きっとキスしてしまったからで。
「……話すの辛いなら、話さなくていいよ?」
その空白の時間を、言いづらいからととってくれたみたいだ。
「いえ、そういうわけじゃなくて」
むしろ、話してしまって、楽になってしまいたい。
「……この前、一緒の布団で寝てたら、ミーナが寝返り打って、……そしたら、キスしちゃって」
初めて、ミーナと唇を重ねた瞬間は、まだ鮮明に思い出せて、その度、胸の奥がズキズキする。
「それから、どんどん、ミーナのこと、好きになっちゃったんです、……こんなになっちゃうくらい、恋してて」
ずっと、ただ頷いて、私の話を聞いてくれた先生。
「香澄ちゃんは、女の子のこと好きになっちゃいけないのに、とか思ってるから、こんなことになってるんだよね?」
するすると、こんがらがった紐がほどけるように、苦しいくらい重い気持ちが、楽になっていく。
「そう、です。だって、そういうのって、男の人と女の人でするものだし……っ」
「大丈夫だよ」
そういう先生の言葉を、素直に信じることができない。
「なんで、……ですか」
「確かに、女の子同士じゃ結婚できないけど……女の子が女の子をを好きになっちゃいけないってことじゃないんだよ?」
張りつめてた神経が緩んで、目元が熱くなる。
「ありがとうございまず、先生……っ」
涙が、気が付いたら溢れてた。慌てて、制服の袖で拭う。
私がミーナに抱いてた気持ちは、間違ってるものじゃないんだ。――それだけで、救われる気がした。
「ううん、いいんだよ?養護の先生は、心の健康のことも扱ってるし」
さらっと、優しくしてくれるとこ、ミーナにそっくり。こんなことで面影を思い浮かべてしまうこと、そっと包み込んでくれる。
「いえ、……聞いてくださって、ありがとうございます、そろそろ教室に戻りますね?」
「もし何かあったら、また来てね?」
そんな声をもらって、教室に戻る。
「あっ、カスミ!」
私に気付いたミーナが、抱きついてくる。
突然のことに対応できなくて、二人で倒れる。
天井のずっと前に見えるミーナの顔。押し倒されたって、それでわかる。
――このまま、キスされたい。そのまま、もっと先まで。
不意に、でも、強く、胸の中に沸いた衝動。
「……っ、ミーナぁ……」
頭の中が、他の人には言えない想像で埋め尽くされて。
「カスミ?……ごめんね、急に」
抱き起こされて、肌の温もりにすら何かを感じてしまうほど、胸の中が誰にも言えないくらい沸騰しそうだったって気づく。
私、ミーナともっと触れたいんだ。えっちなことも、したいって思ってしまうくらい。
こんな気持ちに、きちんと向き合えたとしても、――抑えられるか、怖くなった。