3日目(2)―二人でいると
「ミーナ、本当にごめんね?」
「ううん、いいよ?」
ミーナに何かプレゼントしてあげたくて、一緒に出掛ける。
二人で『お散歩』するの、初めて。
猫だったころのミーナは、勝手にどこかにふらりと行って、ふらりと戻ってきたから。
ミーナの手を、ぎゅっと繋ぐ。絶対に離れないくらいに。
頭のどこかで、あの日のことが、深く深く刻まれているからなのかな、きっと。
「カスミ、手、痛いよぉ……っ」
「ご、ごめんっ、つい……」
胸の奥が痛い。胸の奥で渦巻く感情は、ミーナのこと傷つけてしまう。
そのことに、何故か私まで傷ついていて。
「いいよ、カスミ」
にこっと笑いかけてくれるミーナに、一瞬で心が舞い上がって。
私、おかしくなっちゃったのかな。
「ミーナは、何欲しい?」
「うーん、……思いつかないし、いっぱい見てから決めるね?」
それだけ、ミーナと長くいられる、なんて思ってしまう私がいる。家でだって、いつも二人きりなのに。
さっきより優しく手をつなぐ。厚着の季節、触れる温もりが心地いい。
手に触れる温もりで、人込みの中でも確かな安心感を感じる。
近くにあったデパートに入って、下の階から見て回る。
「あ、これかわいい!」
ミーナが指指したのは、30センチくらいある猫のぬいぐるみ。
茶色のしましまがかかった模様に、――ふと、猫だったころのミーナを思い出した。
「うん、そうだね」
正直に言うと、自分で言って、ちょっとドキっとした。
だって、ミーナは、――姿が変わったとはいえ、ここにいるのだ。
猫だったときのミーナを思い出してかわいいと思うのは、まるで今ここにいるミーナにそう思ってるみたいで。
そして、そんなことを考えると、胸の奥がおかしなくらいに跳ねてしまう。
「じゃあ、これにするね?」
お願い、とねだるミーナ。猫のときみたいに、甘えた声を出して。
その『お願い』に、いつも私は負けてしまう。
……まあ、今日は、最初からそのつもりだったけど、なんて、負け惜しみみたいだ。
帰り道、上機嫌なミーナにつられて、私も笑顔になる。
値段も結構したけど、それもこんな幸せそうな顔を見れば、どうだってよくなるくらい。
おうちに帰ると、部屋で二人きりになる。
「今日はありがと、カスミ」
「私も、ありがとね、ミーナ」
まだ夕飯どころか、日も沈みきってない。
ミーナの手が、ぬいぐるみを包んでた袋を外す。
何度見ても、猫だったときのミーナそっくりだ。
「本当に、わたしみたいだね」
ミーナが3日前には、こんな体だったのが信じられないくらい、人としてのミーナといた時間は凝縮されている。
一緒にごはんを食べたり、学校に行ったり、キスしたり、同じベッドで眠ったり。そんな日々が、あっという間のような、永遠に続くような時間で過ぎていく。
「もー、ミーナはもう人間でしょ?」
からかってみると、「猫のときのわたしのことだよっ」とほっぺを膨らませてしまった。
かわいいって思った一瞬が、やけに胸に残って動揺する。
「ごめんって、ミーナ……」
結局、そう言うことしかできない私。
「なでてくれたら、許してあげるね?」
ミーナに触れられるのは、とっても嬉しい。何にも、変えられないくらいに。
そっと髪を漉くように撫でる。さらさらとしたミーナの髪が、指の間を抜けていく。
「えへへ、カスミぃ……っ」
ミーナの体が優しく触れる。私の指の感触を堪能しているみたいに、笑うような声が甘く漏れた。
猫だったときみたいに、ミーナのこと、ずっと撫でてたいな。
不埒な考えが、心の中に宿っていた。