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第七話 三つ葉の結びめ

 その週の金曜日の天気は曇っていた。

 すっきりとしない曇天模様。夜には雪が降リ出す模様と天気予報は告げていた。

 午後六時。

 元秋と奈々、そして奥山は、カラオケボックスにいた。

 カウンターで申し込みを済ませ、階段を上がり、店員に言われた二階の部屋を目指す。

 一応年長者なので元秋が手続きを済ませ、部屋へ向かうのも先頭を歩く形になると、奥山はしきりと後ろで奈々に話しかけ始めていた。奈々の愛想笑いと、仕方なくなのか、合わせて話す声が聞こえて来る。

 そんな訳で、元秋は最初から最悪の気分だった。

 階段を上がった所は、少し広いスペースになっていて、脇にセルフのドリンクコーナーがあった。

 そこで受付けで渡されたグラスを使い、各々飲みたい飲み物を注ぐ。

 「奈々ちゃん何にするの?メロンソーダ?あ、俺もそうしようかな?」

 奥山は奈々の周りから離れず、隙のない程に話しかけ続けていた。

 奈々も無視出来なくて、相槌を打ったり、軽く話したりしていると、いつの間にか元秋が一人取り残された様な扱いになっていた。

 「元秋君はなに?」

 奈々が元秋の方を向いて聞く。

 「あ、俺は、レモン

 「最初何歌う?奈々ちゃん」

 元秋の話を遮る様に奥山は話を被せた。

 「え、あ、あの、何歌おうかな?」

 急に振られた奈々はつい奥山の方を向き、答えてしまう。

 「決まってない?でも、奈々ちゃん声可愛いから何歌っても上手そうだよね」

 奈々の言葉に、ニコニコ笑いながら、奥山は言った。

 こうやって元秋の話は先程から終始潰されていた。

 

 「あれ、奈々ちゃん」

 階段を上がってきた四人程の男の集団から声がした。

 呼ばれた奈々は階段の方を覗きに行く。続いて奥山そして元秋と。

 上がって来たのは二十代前半位の男性グループだった。

 その中に、蓮梨惟人がいた。

 「お兄ちゃん!」

 奈々が嬉しそうに小さく手を振りながら言った。

 「やっぱり。下から頭が見えたから。最近良く会うね」

 惟人も微笑みながら言った。

 「どうしたの?」

 惟人以外の男達を気にせず、笑顔のまま奈々は聞いた。

 「今日は地元の友達とカラオケ。学校午前中だけだったから。そっちは?」

 そう言いながら惟人は一番後ろに立っている元秋に気付いた。

 「佐野君、こんばんは。この前はどうも。今日は奈々ちゃんとカラオケ?え、っとこっちの彼は?」

 惟人が元秋に尋ねると同時に奥山は自分で言った。

 「奥山です。奈々ちゃんの親友です!」

 その声に惟人は少し驚いて、それから怪訝そうな顔で、

 「そう」

 と、言った。

 「今日は三人でカラオケ来てるの。それじゃあね、お兄ちゃん」

 今度は作り笑いの笑顔で奈々はそう言った。

 惟人が奥山の事を良く思っておらず、自分の事を少し怒っているのが、奈々には感じられたからだ。

 惟人は奈々達が部屋に入るのを仲間達と見てから、ドリンクコーナーに向かった。

 「蓮梨、俺昔あの娘見た事あるぞ。可愛い娘だけど、確か障害あって、変な噂もあったよな」

 仲間の一人が惟人に言った。

 「僕の親戚。たいした事ないよ、軽度の知的障害。お前と同じだよ。彼氏いるんだから、手を出そうとか思うなよ、殺すぞ。お前女子高生好きだからな~」

 ふざけて笑いながら惟人は言った。

 「しかし・・・」


 個室の部屋に入り、カラオケが始まると、それはまさに奥山の天下だった。

 奈々を挟むように男二人は座り、相変わらず奥山は奈々にひたすら話しかける。

 元秋が奈々と話す隙はなかった。

 更に奥山はカラオケの曲も、デュエット曲を選択して、一瞬たりとも奈々を離そうとはしなかった。

 元秋は相当イライラが募り、馬鹿らしくなっていた。

 奥山の事は当然頭に来ていたが、それ以上に自分への配慮の足りない奈々にも頭に来ていた。


 ー受験勉強の時間を割いて来て、この扱いか。奈々は俺の事を好きなら、それをもっとアイツにアピールして、拒絶すればいいのに。楽しそうに笑って。見せられてる俺が苦痛なだけじゃないか。ふざけてるー


 そんな事を元秋は思っていた。

 「じゃあさ、じゃあさ、奈々ちゃん」

 「へー凄い!」

 「これは?これは知ってる?奈々ちゃん」

 「えー、知らない」

 いつの間にか誰も歌わなくなっていたカラオケボックスのその部屋は、奥山と奈々の声だけが響いていた。

     ガタッ!

 そして、ずっと沈黙していた元秋が突然立ち上がった。

 しかし誰も気付かなかった。

 奈々は奥山の方を向いていたから分らなかったのかも知れない。奥山は気付いていて知らないふりをしていたのかも知れない。

 元秋はそのままふらふらと、ドアの方へと向かって行った。

    ガチャ

 ドアを開けた。

 その時ようやく奈々は、元秋が出て行くのに気付いて振り返った。

 「元秋君!何処行くの!」

 その言葉に元秋は辛そうな顔で、

 「ちょっと、トイレ」

 と言って、ドアを閉めた。

 不安そうな顔の奈々を残して。



       つづく



いつも読んで頂いて、有難うございます。

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