第六話 強い気持ち・強い愛
次の日火曜日の朝は、相当冷え込んではいたけれど、快晴だった。
そして学校に行く前の朝の河川敷に、いつもの様に二人はいた。
「だからさ、どうすればいい?どうして貰いたい?」
元秋は昨日の夜、否もっと前からずっと考えていた事を、ついに奈々に言った。
これから先の事だ。
自分の進学の事。奈々の卒業後の予定。進学先によっては遠距離になるかも知れない事。離れる事で自分は心配があるという事。それは、奈々の性格によるものもあるのだけれど。それは言わなかった。
「国立なら近いの?」
奈々が聞いた。
「いや、国立でも、電車で一時間位はかかる。県庁所在地のある街の側だから。それに多分、国立は無理だ。私立。この街の大学なら近いけど、偏差値が一遍に低くなって、行っても行かなくても同じになっちゃう。前の模試の結果だと、俺が入れそうな良さそうな大学で近場だと、多分仙台辺りかな」
元秋は現在の自分の学力の状態を、包み隠さず話した。
「仙台!お兄ちゃんと同じだ~。夜か、休みの日しか会えないね」
驚いて、そして少し寂しそうに奈々は言った。
「うん。でも、それは今も同じだから」
「そうだけど・・・」
「奈々は、俺にどうして貰いたい?」
「どうしてって・・・」
奈々は暫く黙って下を向いて考えて、そして顔を上げ、笑顔で元秋の顔を見た。
「それはやっぱり、元秋くんの思った通りにした方がいいよ。なかなか会えなくなるかも知れないし、寂しいかも知れないけど。でも、寂しいのは私だけじゃないでしょ?」
そう言う奈々の笑顔のあまりの可愛さに、元秋は思わず奈々を抱きしめた。
「んぎゅっ」
突然抱きしめられて、奈々は思わず声が漏れた。
「ごめん。違うんだ。きっと奈々はそう言うと思ってた。決められないのは、俺なんだ。俺が奈々と離れるの嫌なんだ、心配なんだ。不安なんだ」
そう言いながら元秋は更に深く奈々を、抱きしめた。
奈々は一瞬、苦しい顔になったが、直ぐに柔らかい表情に戻り、嬉しそうな顔で元秋の胸に顔を埋めた。
それから手を伸ばして、元秋の頭を撫で始めた。優しく。
「でもね、私は元秋君信じてるし。元秋君も私の事信じて。だって、中学からの片想いだったんだよ。運命の出会いだって、二人で言ったじゃん」
元秋の胸に埋めた顔を少し横にずらし、口元が開く様にして、頭を撫でながら奈々は言った。
「分ってるけど。離れたくない。どんどん好きになってく」
「へへへへ」
元秋の言葉に奈々は照れ臭そうに笑った。
そして、頭を撫でていた手を下ろし、抱きしめている元秋を引き離そうとした。
「なっ」
奈々から引き離された元秋は、不満気につい声を漏らした。
奈々は照れた様に笑っていた。
「そんなに奈々ちゃん可愛い?元秋君」
首を横にしておどけた様に言った。
「そりゃあ、可愛いよ」
「んぷぷぷぷ」
笑いを堪える様に口を閉ざすが漏れる音。
奈々はこれ以上ない満面の笑みで、元秋を見た。
「大丈夫。私元秋君の事大好きだから。大丈夫!」
それから二人は、お互いの昨日の出来事を話した。
ただし元秋は、早苗に塾の帰りに会った事は言わなかった。
自分はなんとも思っていないが、奈々はどう思うか分らない。変に勘繰られたり、波風立てたくなかったからだ。
奈々は、コンビニバイトでの出来事を全て話した。
奥山の事も。
「え~!、カラオケ」
「お願い!手を合わせて、こう頼まれちゃったの」
奈々は元秋の前で手を合わせ、神様にお願いをする様にして見せた。
「嫌だよ。そんなの」
「彼氏連れて来ていいからって。一回だけ一緒にカラオケとか行きたいんだって。毎日つまらなくて、寂しいって」
「え~、もしかして約束とか、しちゃったの?」
ひどく嫌そうに元秋は聞いた。
「ごめんなさい!だってあんまりしつこくて、可哀想な事言うんだもん」
元秋の態度に本当に困った様に奈々は言った。
「で、俺が行かなかったらどーすんの?そいつと二人でカラオケ行くの?」
「んっ」
元秋のその質問には、奈々は答えられなかった。
奈々にもそれはマズイという事は分っていた。
数秒の沈黙の後、元秋が口を開いた。
「しょーがないな。いいよ。一緒に行くよ」
奈々の顔が明るくなった。
「ありがとう!元秋君!」
つづく
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