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第三話 曖昧 me mine

 「お兄ちゃんも見に来たの?」

 列から外れて後ろに立っていた青年に数歩歩み寄り、奈々は聞いた。

 「いや、僕はバイト。警備のバイトで今日はこっちに回されたんだ」

 青年は色白で、身長百七十センチ程か。百六十七センチの元秋より少し高く見えた。

 「奈々ちゃんは、例の彼氏とデートかい」

 「へへへへ」

 そう言われて奈々は照れ臭そうににやけた顔をした。

 「彼氏、どこ?」

 「こっち」

 青年の腕を掴み嬉しそうに元秋の元に戻る奈々。

 そんな奈々を見て、内心気分の良くなかった元秋は、それが顔に出ていた。

 「どうしたの?元秋くん」

 キョトンとした顔で、少し首を傾げて奈々は聞いた。

 「なんでも」

 明らかに先程までとは違和感のある無機質な言い方で元秋は言った。

 しかし奈々は全然気にせず話始めた。

 「この人、親戚のお兄ちゃん」

 奈々と腕を組み、肩を寄せ合っている青年は、元秋の方を笑顔で眺めながら、口を開いた。

 「はじめまして。僕は蓮梨惟人です。奈々ちゃんから聞いてます」

 「ああ、は、はじめまして。佐野元秋です。そう、奈々の親戚」

 惟人の正々堂々とした態度に圧倒され、元秋は少したじろいだ。 

 「お母さん同士が姉妹なの。どう?こうやって並ぶと似てる?」

 元秋は言われるがまま、二人の顔を見比べる。

 確かに、男と女だし、輪郭とか全然違う筈なのに、何処となく似ていた。

 「ん~そう言われれば。鼻が似てるかなあ」

 「へへへへ、そお。お兄ちゃん昔から私に優しいんだあ。親戚の集まりとかでも、いつも何かあると私の味方してくれたの」

 そう言うと奈々は惟人と組んでた腕をグイと引っ張り、更に体を密着させた。

 「奈々ちゃん、ちょっと」

 元秋の表情に気付いた惟人は言いながら、奈々の腕の間から、自分の腕をスルッと抜いた。

 「また焼餅妬かせようとしてる。ごめんね。佐野君」

 抜いた腕を元秋の前に差し出しながら、惟人は言った。

 「いや~、大丈夫です。慣れてます」

 そう言いながら元秋は手を伸ばし、差し出された手を握った。

 惟人の手は、およそ男性の手とは思えないくらい、ゴツゴツしてなく、柔らかい手だった。

 「奈々ちゃんは妹の様なものだから。分ってんだろうな」

 眼鏡の奥の瞳は相変わらず微笑んだままで、惟人はそう言った。

 「ああ、はい」

 返事をしながら元秋は、どうにもこの人は、不思議な威圧感があると感じた。

 どちらからともなく、二人の手は離された。

 「それじゃあ、僕はバイトの途中だから」

 言いながら惟人は、奈々の方を振り向いて軽く手を上げた。

 そしてその場を後にした。

 「バイトって、フリーター?」

 「ううん。仙台の大学通ってるの。大学生。お兄ちゃん頭良いから」

 元秋の質問に、奈々は惟人の去って行く方を見ながら答えた。

 「へー。大学生。仙台まで通ってるんだ」

 「元秋君も大学行くんでしょ?」

 今度は元秋の方を振り向いて、奈々は言った。

 「ん・・・うん」

 元秋にとってそれは、なんとも答え辛い質問だった。


 「あ、こんな所にいた!」

 列の前の方からこちらに向かって、二人で歩いて来る安藤の声がした。

 「舞!」

 奈々は元秋から、安藤と舞の方に視線を移し、手を振った。

 「奈々遅いよ。パーカーもう直ぐ売り切れちゃうよ」

 「嘘!あれ絶対欲しいい~」

 「そう思って、パーカーとピンクTは奈々ちゃんと佐野の分も買って来た!」

 安藤が、手に持っていた袋を掲げて、舞と奈々の話に混ざって言った。

 「早く何処かで着替えないと、この辺のトイレは混んじゃうよ」

 舞が言う。

 「そっかー」

 「あれなら二人で行って来ていいよ。着替え。欲しいのあるんなら、俺、佐野とこのまま並んで買っといてやるから」

 「ホントに!安藤君優しい~」

 はしゃぐ奈々。

 「いやいや、それほどでも」

 安藤は照れて頭を掻きながら、ずっと黙っている元秋の方を見た。

 「どったの?おまえ」



      つづく

 

いつも読んで頂いて、有難うございます。

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