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卒業・番外編 心のままに ③

いつも読んで下さる皆様、本当にありがとうございます。

この話で『カノオト 1.5』は完全終了になります。

内容的には中途半端な終わりになっているかも知れませんが、これにておしまいです。

サブタイトルの「心のままに」は、僕自身が心のままに書いたという感じの話になってしまいました。(笑)

 校門を抜けて、緩い下り坂をテクテクと歩きながら僕達は駅の方を目指した。

 先程まで僕のいた駅の裏側、東口の方に大きな川が流れていて、川原があるからだ。

 僕の油絵は、そこでスケッチした風景何枚かをモチーフに描いたものだった。


 「並木先輩って、彼女いないんですか?」


 確かにたいして話もしないで、黙々と駅に向かって歩いていたし、沈黙が重い空気を運びつつあったかも知れないけど、彼女の発した言葉はあまりにも唐突過ぎて、僕は思わず立ち止まった。

 そして立ち止まった僕の横を、僕より十センチ程低い彼女、谷川さんは顔色一つ変えず通り過ぎながら、更に追い討ちをかけた。

 「あ、その動揺は、いないんですね」

 「あ、あのさ、いない奴の方が多いよ。僕の友達、殆ど彼女いなかったもん」

 立ち止まったまま、少しずつ遠ざかって行く谷川さんに向かって、僕は慌ててそう言った。

 その言葉を聞いて今度は谷川さんが立ち止まる。

 そして振り返って言った。

 「人と比べてどうするんですか先輩。並木拓郎先輩は此処に一人しかいないんですよね。先輩はそんなに周りに無関心で、無頓着だったんですか?好きな人もいなかったくらい」

 「えっ、なんでそんな大袈裟な!」

 彼女の発言にまたも驚いた僕は、そう言いながら立ち止まっている彼女の方に向かって歩き出した。

 「本当に男子って、臆病で傷付くのを恐れて、傷付きたくないから無関心を装って。可愛い女の子が黙っててもあっちから来てくれるとでも思ってるのかな」

 近付く僕に彼女の言葉は見当違いというか何というか。

 「なんか、それ僕の事? 話が大き過ぎない?」

 追い付いた僕が彼女の横に並ぶのと同時に彼女は前を向いて歩き出した。

 当然僕もそのまま歩き続ける。

 「並木先輩の事は良く分らないから、知りません。私のクラスの男子とか、そこいらの男子全体の事です。全く無気力無関心というか、自分から動こうって姿勢が見えない」

 僕の事ではなかったらしい。

 (彼氏と最近喧嘩でもしたのかな? 真面目な子ってイメージだったけど、真面目な子って、得てして気が強いのかな?)

 そんな事を考えながら、いつの間にか話は彼女の中の男子論に変わっていた。

 「男だって女だって色々な人がいるよ。環境の違いでも性格は大きく変わるって言うし。僕の場合だと大勢の人の中では自己主張が出来なくなっちゃう。一対一、個別に話すのならその人を理解しようとちゃんと話も出来るんだけどね。一遍に大勢の人の中だと、誰の気持ちも中途半端で理解できないから、黙ってる様になっちゃう。みんなと違う方向、見当違いの事を言っちゃうんじゃないかって」

 「そういうのは私も少なからずありますけど。でも、男子の女子化って言うんですか? ウジウジしてるの見てると、もう少ししっかりしろよ! とか思っちゃう」

 制服の胸の辺りに手を持って来て、拳を握り締めて彼女は言った。

 「女子の男子化って言うのもあるよ。彼氏の話?」

 少し余裕のある声で、ここで僕は彼氏の話を切り出してみる。

 一対一なら僕もこんな風に女の子と話せるんだなと改めて気付きながら。

 「んーまー、そうなんですけどね」

 少し照れた様に彼女は答えた。

 「なんだ、惚気話?」

 笑って僕は直ぐに言う。

 「違いますよ! それもあるけど、最近のクラスや部の男子。私の周りの男子全体です」

 彼女も慌てて照れを隠す様に言い返す。

 こんな何気ない対話すら、高校時代にはあまり記憶がない。

 (ああ、女の子と話してるだけでも僕はこんなに楽しいんだ。高校時代、もっと意識せず、普通に話していれば良かったな)


 彼女との対話の中で僕は少しずつ気付き始めていた。

 僕は高校までずっと集団の中にいた。

 僕に限らず大抵の学生は、幼稚園・小・中・高と、みんなそうだろう。

 そしてここからは自分の選んだ道に変わる。

 就職するか、大学に行くか、専門学校・予備校。決まりきったレールではなく、基本的には自分で決める。それは、今までは知った顔もちらほらある、狭い世界だったのが、全く知らない新しい世界に飛び込む様な感じだ。

 結局の所は、他の人の事は知らないけれど僕は、高校までの集団生活から外れて、専門学校が始まるまでの今の期間。集団の中にいる安堵感を失い、寂しかったのかも知れない。人恋しかったのかも知れない。

 (だから僕は、学校に行ったのか……)


 「どうしたんです? 急に黙っちゃって」

 彼女、谷川さんの声で我に返る。

 気が付くと、もう目の前には駅が見えていた。

 「あ、ごめん。考え事しちゃってた。ここから左に駅を迂回して行こう。もう少しで僕がスケッチしていた場所に着くよ」

 慌てて僕はそう言った。



 川原に着くと、川沿いに吹く風がまだ少し冷たかった。

 「まだ少し、寒いね」

 「そんな事より、謎の棒は何処ですか?」

 僕の言葉など意に介さず彼女は、川原から河川敷を見下ろしながら尋ねた。

 だから僕も眺めて探してみるが、棒は見当たらなかった。

 「こっちじゃないのかな。あっちの方でもスケッチしたから、もう少しあっちまで歩いてみる?」

 僕の言葉に力強く彼女は頷き、僕らは川原の小道をもう少し二人で歩く事にした。

 川を渡る鉄道の河川橋の下をくぐり、日陰から日の当たる所に出る時だった。

 午後二時四十六分。

 サイレンが鳴った。

 僕らはお互いに顔を見合わせてから、太平洋側の方を向き、手を合わせて黙祷を始めた。

 一分間の静寂。

 僕は静かに合わせていた手を離し、目を開けて、彼女の方を向いた。

 彼女は僕よりも早く、既に目を開けていた。

 「ついでに棒が見つかります様にってお願いしちゃった」

 少しだけ舌を出し、笑って言う彼女。

 「不謹慎だな」

 僕は少し笑いながらそう言って、周囲を見回した。

 「いた!」

 思わず大きな声でそう言いながら僕はその方向を指差した。

 「何処です?」

 彼女は僕の指差す方を見ながら言う。

 僕らのいる川原から六十メートル程離れた下の河川敷に、二人はいた。

 奈々ちゃんとその彼氏だ。

 「人間?」

 呆気に取られた様な声で彼女は言った。

 「そう。女子高生と男子高校生。あの二人、朝僕がスケッチにこの川原に来た時、良く見かけたんだ。だから僕の風景の一部。僕が此処で見た景色にはあの二人がいつもいたから。もっとも、あっちは僕の事を知らないだろうけどね。たまに抱き合ってるのも見かけたりしたよ」

 「なーんだ。じゃあ緑や青って、制服ですか。先輩、覗き見は厭らしいですよ」

 詰まらなくなった様な口調で彼女は言った。

 「油絵に、あの二人を入れた時は、なんとなくだったんだ。洒落た気持ちで」

 彼女、谷川さんの方は見ずに、僕は下の河川敷で向き合って楽しそうに話している二人をみつめながら、話を続けた。

 「でも、今は自分が描き入れた訳が少しだけ分る。繋がってない様だけど繋がっている。あの二人は僕を知らないけど、僕は知っている。何度か見て来た。笑ったり、泣いたり、怒ったり、悩んだり。ここからでも何となく分った。此処で一人でスケッチしていたくらいの僕には、高校生活に何もなかったけど。あの二人は、きっと二人だから色々あったんだと思う。それを僕は此処で少しだけ見て来た。それも僕の人生の一つなんだ。僕の見て来た景色の一つなんだ。だから描き込んだんだ。そしたらそれが気になった谷川さんと繋がった。一緒に此処まで見に来た。ありがとう谷川さん。卒業式の日の花束もありがとう。高校生の時は当たり前の繰り返しの生活で、慣れきって、考える事に怠惰になってたんだ。それが卒業してそれまでの集団行動から外れたら今度は、僕は不安で寂しくなった。本当は僕が誰かを見つける様に、僕の事も誰かが見つけて、きっと見ていてくれてるんだね。だから僕らはきっとみんな、どこかで繋がっているんだ。だから僕はあの絵にあの二人を描き入れたんだ」

 僕が話している間、彼女は黙って僕の顔を見ていた。

 そして話し終わると一言、笑いながら自慢気に言った。

 「そんな事も今まで知らなかったんですか、先輩」

 「ああ、知らなかった」

 僕も彼女の方を見て、笑いながら答えた。

 「しょうがないな~。学校始まっても、たまにはOBで放課後美術室に来て下さいね」

 「うん」

 彼女の言葉に頷きながら、僕は笑顔のまま河川敷の二人を眺めていた。

 そして嬉しくて、目が潤んだ。




       おわり




 河川敷で黙祷を終えた奈々と元秋はこれからの話をしていた。

 受験が終わり、元秋の進学先の大学が決まると、奈々は以前カラオケボックスで奥山に襲われ、キスされた事を元秋に話した。しかしそれは既に元秋の知っていた事なので、笑って、「忘れよう」で片付いた。

 また、元秋も鈴鳴早苗と色々あったが、結局何もなかったので、その事を元秋は黙っていた。

 好きだからこそ言わない事や赦す事が大切な場合があると思っていたからだ。

 その判断が正しいか正しくないかは別にして。


 「二十日は用事はないけど。何処に行きたいの?」

 抱き付いている奈々の頭を撫でながら、元秋が言った。

 奈々は元秋の胸の辺りに埋めていた顔を上げると、微笑んで元秋を見上げた。

 今でもその笑顔を見ると元秋はドキリとする。

 「お彼岸でしょ。元秋君の大学合格の報告をしたいの」

 「ああ、北村颯太君か」

 「いいでしょ?」

 微笑んだまま首を横にして甘えた声で奈々は言った。

 元秋に断る理由はなかった。

 「いいよ」

 優しく言ったその言葉に奈々の顔が一層ほころぶ。

 

 「だから元秋君、だーいすきっ!」

 

 

 生きている二人の時間はまだまだ続きますが、『彼女の音が聞こえる 1.5』はこれにておしまいです。

 今まで読んで下さった方々、ありがとうございました。

 (続編は書いても夏以降になります。それ以前にこの先はR指定の可能性が高いので、書くかどうかも今の所分りません(笑))

 




  オマケ

 最後の最後まで読んで下さった皆様へ。

 「ありがとう!」のサービス! 奈々ちゃん超絶セクシーらくがき♪

 (怒る人もいるかも…怒らないで~)

 挿絵(By みてみん)

 

 

 

 


 

 

 

 

いつも読んで頂いて、有難うございます。

ブックマーク・評価・感想など頂けると励みになります。


今回の話は高橋優の曲(特に最初のアルバム)を聞きながら書いたら、この様な話になりました。(笑)


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