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卒業・番外編 心のままに ②

心のままに書いたら、ついに奈々も元秋も出ない回になってしまいました。

何処へ向かっているんだろう? この番外編は?

 動くエスカレーターの上を、更に歩いて降りて行くと、直ぐに一階へと辿り着いた。

 もう彼女達、奈々ちゃん達とは相当離れた事になる。

 僕は商業ビルの外へ出た。


 「宜しかったらどうぞ」

 ビルの前の街頭に一列に並んだメイド姿の女の子達の一人が、そう言いながら僕の方にポケットテッシュを差し出した。

 思わず僕がそれを受け取ると、彼女はニコッと笑って見せた。

 こういう時、どういう表情をすれば良いのか分らず、結局無表情のまま僕は、その場を通り過ぎた。

 僕が出て来たビルの隣のビルに、いつの頃からか、メイド喫茶があった。

 テッシュ配りはそこのメイドさん達だ。

 受け取ったポケットテッシュを見ると、やはりそこの広告が書かれていた。

 以前この店の店内にアイドルグループでん○組の一人、えい○そのサインがあると聞いて、友達と行こうかと盛り上がった事もあったが、小心者の僕も友達も、結局は行かなかった。

 (こんな消極的で小心者の僕でもいつかは、人並みに彼女が出来たり、結婚したり出来るんだろうか……)

 そんな漠然とした不安を、本気で考えてしまう。


 そんな事を考えながら歩いていたらいつの間にか国道四号線を越えて、自分の卒業した高校の方に、足が向いていた。

 不思議なもので、あれ程なんの興味も未練もなかった高校なのに、卒業した今となっては足が向く。

 (目立たなかったけど、確かに僕は此処にいたから。この高校が僕が三年間存在した証だから)

 そんな事を思いながら校門をくぐり、自分の使っていた昇降口へと向かう。

 今は確か、高等受験Ⅱ期選抜の関係で休校。昨日までが試験日程だったと思ったから、今日は在校生も受験生もいない筈だ。

 誰もいない静かな昇降口。

 光の差し込み方なのか。下駄箱から正面廊下にかけて、いつも少し薄暗く、涼しい空気が流れている。

 思わず僕は自分の下駄箱に触れる。

 そこにはもう僕の上履きはない。

 僕だけじゃない。僕の同級生達の上履きも、当たり前だけどなかった。

 僕の、僕らの、高校時代は終ったんだ。

 そう思ったら何故か、今頃悲しさが沸いて来て、何もしなかった、出来なかった自分が未練がましくて、ここでこのまま、蹲ってしまいたい気持ちになった。

 (もっと自分から、色々動けば良かったな。何もかも面倒臭い、つまらないと思って過ごしてしまった。だから僕は、後輩からの花束も、詰まらなそうな顔で受け取ったんだ。卒業してからこんなに未練があったなんて……)

 僕はもう一度校舎を、教室を目に焼き付けようと、自分の下駄箱にスニーカーを入れ、来賓用のスリッパ入れから一組取り出し、それを履いて廊下に上った。


 「なんだ並木じゃないか。どうした? 卒業してすぐに」

 昇降口から二つ隣に位置する職員室から出て来た先生が、直ぐに僕に気付き、声をかけてきた。

 「あ、どうも。忘れ物を」

 慌ててお辞儀をしながら僕は言った。

 「忘れ物?ふーん。ま、早く帰れよ。二時からは採点が始まる。全校生徒、部外者は立ち入り禁止になるぞ」

 先生は腕時計をチラッと見ながらそう言うと、僕とは反対の方向へ、トイレへと歩いて行った。

 「わかりました」

 努めて冷静に言いながらも、本当は僕は嬉しかった。

 先生は社会科の教科担任だった。

 顔ぐらいは覚えられているかもと思っていたが、まさか名前を呼ばれるとは。

 (僕は確かに此処にいたんだ)

 そう思うと気持ちはどんどん高揚していって、僕は最大の自分のいた証、美術室に飾られている自分の描いた油絵が見たくなった。

 

 階段を上り二階に行く。

 校舎の西側の隅。いつも西日が強く、カーテンがかなり色褪せていた美術室。

 美術室に飾られていると言えば大層な事の様だが、実はなんていう事はない。

 美術部の卒業生の絵は全部今の時期、飾られている。

 それはそのまんま、僕がみんなと一緒に美術部員だった事の証になる。

 だから、みんなと一緒に飾られた僕の絵を、僕は卒業した今もう一度素直な気持ちで見たかった。

 先程の、奈々ちゃん達の花束の話がまだ頭に残っていたからかも知れない。

 二階の廊下の突き当たり、美術室の入り口。

 その引き戸を僕は引いた。


     ガラガラガラ……


 音を立てて開けた戸の向こうには、僕に背を向ける様に、女生徒が一人立っていた。

 「あっ」

 予期せぬ事に思わず声を上げた僕に、彼女は振り返った。

 現部長・谷川さんだった。下の名前は知らなかった。

 彼女は黙って僕を見ていた。

 「部長、何してるの?」

 仕方なく僕の方から話しかける。

 「部長は休みの日も忙しいんです。でも今は、絵を見ていました。元副部長の先輩」

 途中から少し意地悪そうな顔をして、彼女は言った。

 「なんだよその変な呼び方」

 「先輩だって私の事部長って呼んだじゃないですか」

 僕の言った言葉に彼女は即座に言い返す。

 いつもきっちりした真面目な子だと思っていたけれど、そういう事なのか。

 「え~、じゃあ、谷川さん。何を見ていたの?」

 僕は言い直した。

 「絵です。卒業した先輩方の絵。そして丁度今は、並木先輩の絵を見ていました。凄い偶然」

 今度は少し微笑んで、彼女も言い直した。

 そしてその偶然と彼女の笑顔に、僕はドキリとした。

 「ところで、私の下の名前は知っていますか?並木拓郎先輩」

 「へ?」

 続けて彼女の言った言葉に僕は言葉を失った。

 知らないとは言い辛く、黙って彼女の顔を見ていた。

 彼女は相変わらず微笑んだまま、暫く僕の間抜け面を眺めた後、口を開いた。

 「知らなくても良いんですよ。私も並木先輩の下の名前知らなかったから。丁度今、この絵を見るまで」

 (やられた)

 彼女のその言葉に僕はそう思った。絵の下には名前の書かれたプレートがある。

 「でも、おかしいですよね。同じ部なのに、学年単位でまとまって、お互いの名前も良く知らない。先輩にこういう事いうのもなんなんですけど。卒業式の後、部活の花束贈呈あったじゃないですか。あれって毎年恒例だからやってるだけで、本当はやる気がなく、仕方なしでやってる二年もいたんです。それから、貰う先輩達もしらけた感じで貰ってた先輩いましたよね。そういうの、どう思います?」

 「どうって?」

 ビックリした。自分の事を言われているのかと思った。

 「私、先輩でも、部活中にスマホ出してゲームやってた様な先輩とは繋がりを持つ必要はないと思うんです。でも、真面目にやっている先輩や後輩とは、縦の繋がりも持つべきじゃないかと思うんです。美術部って、私が入った頃からもうずっと学年単位でばかり集まっていたじゃないですか」

 「でも、なんでそれを僕に?」

 素朴な質問がつい口から出る。

 「だって先輩は、部活中は真面目にいつも絵を書いてたじゃないですか。友達がゲームしてても。そういうのって、みんな見てますよ」

 じわじわと、全身の毛が逆立つ様な感触が僕を襲った。

 (みんな見ていた。僕の事を。……僕は確かに此処にいたんだ)

 それはなんの思い出も持たずに高校を卒業したと思っていた僕にとっては、凄く嬉しい言葉だった。

 「そうだね。もっとお互い深入りして、関係を築いていれば、卒業式の時に、送る方も送られる方も、きっと何かを感じられるかも知れないね。僕は、多分何も感じずに卒業しちゃったんだと思う。それを今更後悔して、こうやって学校に来ちゃった。そして自分の創作活動の記録、絵を見に来た」

 「そうなんですか」

 「うん。だから谷川……」

 「芽衣です。谷川芽衣」

 「谷川芽衣さんは、後で後悔しない様に、自分がいいと思った事はドンドンやった方がいいよ。部長なんだし」

 「はい」

 彼女は嬉しそうにそう言った。


 それから僕は、彼女の横に並ぶ様に立ち、自分の描いた油絵を眺めた。

 それは川原でスケッチした絵を元に描いた絵で、少し色の配色を幻想的に変えていた。

 僕は絵を眺めながら、気持ちは半分くらい隣の彼女の事を考えていた。

 (もっと早く、谷川さんとちゃんと話していたら。もしかしたら彼女と付き合っていたかも知れないな。こうやって並ぶのも、手を繋いでだったかも知れない。話さなければ分からない事もあるし、動かなければ変わらない事もあるんだよな。僕はそういった事に気付くのが少し遅かったのかも知れない)

 「並木先輩」

 自分の絵を見ながら、そんな事を考えていた僕を、谷川さんの声が現実へと引き戻した。

 「ん?」

 「勘違いされると困るので、先に言っておきますね。私、彼氏いますから。なんか、今までの話自分で整理したら、私が先輩に好意があるように思われたかなって思って。ううん、嫌いじゃないですよ。ただ恋愛感情とは別ですからね」

 「うん、わかった。彼氏同級生?」

 彼氏がいると聞いても、ショックには感じなかった。僕もまだ、そこまでの気持ちには流石になっていなかったようだ。逆に今の話で、更に好意を持ったくらいだった。

 (うわー、なんていい子だ)

 なんて感じに。

 「同級ですけど、学校は違うんです。中学からの腐れ縁で。虐められっ子の、弱っちい奴です」

 彼氏を思い出してか、頬を少し赤らめて、彼女は言った。

 「そう」

 僕も何故か優しい気持ちで、そう言えた。


 「ところで先輩」

 「んっ」

 突然彼女が言った。

 「ずっと気になっていたんですけど。この、青と緑の重なる様に並んでいる棒は何ですか?」

 そう言いながら彼女が指差したのは、僕の川原の絵の中の、遥か遠くの川面に近い河川敷に立ち並ぶ二つの緑と青の棒の事だった。

 僕は思わずほくそ笑んだ。

 「それは生き物だからね。今の時期見えるかな。ん~、でも見に行ってみる? もしかしたら見れるかも知れないし」

 「生き物なんですか!」

 僕の話に彼女は俄然目を輝かせた。

 「どうする?」

 「行きましょう! 私、棒の正体が見たいです!」



      つづく

 

 

 

 

いつも読んで頂いて、有難うございます。

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今回の話はユーミンの曲(特に「最後の春休み」)を聞きながら書いたら、この様な話になりました。(笑)

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