第二話 無音の警告
一応書いておきますと、こちらに出て来る安藤と舞は、『何処へいこう』の安藤・舞とは別人です。作者が名前を考えるのが苦手なだけです。
西野女子高校二年の野沢奈々は軽度の発達障害だ。
発達障害は完治がないと言われている。
思いつきで行動したり、感情の起伏が激しかったり、空気の読めない言動や行動。
それらは元秋が何度となく奈々を見ていて感じた事だった。
そして、現在人口の5パーセントは発達障害だと言われている。
だから元秋は、細かい事を挙げれば自分だって軽度の発達障害じゃないのか。大抵の人はみんな、軽度ではあるんじゃないのか。と思っていた。
その日の東野高校昼休み。
いつもの様に元秋の机の周りに、佐藤・大内・安藤の三人が集まっていた。
二~三年はクラス替えがなかった。
「奈々ちゃんの奢りで行くの?コンサート」
「羨ましい」
佐藤と大内が口々に言った。
「うん。一緒に行きたかったって言うし」
元秋は少し照れた様に言った。
「奢りのままじゃ悪いだろ。お前、グッズ買ってあげろ」
腕を組みながら、安藤が上から目線で元秋に言った。
実際、席に座っている元秋以外は、みんな立っていた。
「グッズ?」
「そう。ハイハイのファンはみんなピンクTシャツ着るからな。それと、パーカーは欲しいだろ。ついでにリストバンド。しめて一人分で八千円てところか」
ニヤニヤしながら安藤は言った。
「八千円!そしたら俺のも買ったら一万六千円!」
「そういう事。それぐらいしてやれよ。可愛い奈々ちゃんの為だろ。俺も買うんだから」
「え、安藤お前も行くの?」
「今度は誰と?」
「また別な彼女?」
元秋に続いて佐藤と大内も聞いて来た。
「あれ、佐野聞いてない?舞ちゃんと俺と、お前らで行くんだよ。連番四枚」
「え、そうなの!」
安藤の言葉に元秋は驚いた。
「そう。ハイハイはイイぞ。振り付けに、両隣と肩組んだり、手を繋いだりするんだから。舞ちゃんと奈々ちゃんに挟まれて、肩組むなんてウフフ」
安藤はニヤニヤしながら言った。
「なんだよ、お前らばっかり~」
「そういう話かよ~」
途端に見るからに詰まらなそうに、佐藤と大内は言った。
「何でお前を挟むんだよ!」
元秋だけは一人むきになって、安藤に言い返した。
「胡瓜の彼女?」
男四人で盛り上がっていた所へ、佐藤と大内の後ろから、女子の声がした。
慌てて佐藤と大内は体を少し避けながら後ろを見る。
避けた事で、安藤と元秋もその姿を見る事が出来た。
「鈴鳴さん」
正面に対峙する元秋が思わず名前を呼んだ。
「余計な事かも知れないけど、住む世界が違うんだから、高校のうちで別かれた方が良いよ。佐野君」
「は?なんの話?」
元秋は思わず意味不明過ぎて、素っ頓狂な声で言った。
「あなたは大学を出て、例えば公務員とか安定した職に就く。でも、胡瓜の彼女は、高卒で就職しても工場とかで、下手するとパートとかかも知れない。進む人生が違うって事。佐野君は佐野君で、大学で同じレベルの彼女が出来るかも知れない。彼女は彼女で、工場で好きな人が出来るかも知れない」
「鈴鳴さん、喧嘩売ってる?俺の知り合いも西女に沢山いるんだけど」
鋭い目つきで鈴鳴早苗を睨みながら、安藤が言った。
「安藤君のは遊びでしょ。割り切ってるから大丈夫。佐野君のは、心配してあげたの。お互いに傷付く事になるかもよって」
「ありがとう。余計なお世話」
安藤と早苗の話を黙って聞いていた元秋は、顔色一つ変えず、無表情のまま、そう言った。
「そういう風に言うの。わかった」
顔を真っ赤にして、怒った様にそう言うと、早苗はそこから歩いて自分の席の方へ向かった。
男達四人は、早苗が遠ざかって行くのを暫く見ていた。
「なにあれ?」
最初に大内が声を出した。
「お前の事好きなんじゃないの?」
面白そうに笑いながら佐藤が言った。
「まさか」
「いや、佐藤の言う通りかもよ。高三の冬だ。そろそろ高校生活ラストに向けて、彼氏彼女作りに励む頃だしな」
安藤も楽しそうな顔をして言った。
「あ~俺も彼女欲しい~」
「俺だって~」
大内と佐藤が口々に言った。
「そういうんじゃないよ。最近塾が同じで良く会うからだろ。多分」
席に座り周りの女子と何か話している早苗の方を見ながら、頬杖をついて元秋は言った。
それから三日程経った土曜日。午後三時半。
市民文化センターの前には物販待ちの列が出来ていた。
その中に元秋と奈々もいた。
「ひえ~、グッズ購入でもこんなに並ぶの?」
「コンサート見ない人も、グッズだけは買うから」
「そうなんだ。安藤たちは何処だろ?あいつも並ぶって言ってたけど」
そう言いながら、元秋は辺りをキョロキョロ見回した。
「前の方じゃないかな?私、ちょっと見て来ようかな?」
奈々はそう言うと、列から体をフラフラと少しはみ出した。
「奈々ちゃん?」
突然、後ろから声がした。
列から外れた奈々と、列に並んでいる元秋が、同時に後ろの声の方を振り返った。
スーツ姿の眼鏡をかけた若い男性が立っていた。
その瞬間、奈々の瞳は大きく見開かれ、思わず顔がほころんだ。
「お兄ちゃん!」
「微笑」
つづく
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