バレンタイン短編 バレンタイン・キス
多分大抵の方の予想とは違う話になってます。(笑)
「バレン○インデーキ~ッス♪ リボンをかけて~
シャラララ 素敵に キッ~ス! ♪」
「で、なんであいつが『バレキス』歌ってんの?」
大音量に顔をしかめながら、元秋は体を少し前に乗り出して、テーブルの向こうのソファーに座る佐々木舞に尋ねた。
「え、知らないんですか?この歌って最近では男子が歌うんですよ」
安藤の『バレキス』に手拍子を打ちながら、楽しそうな顔をして、舞は元秋に答えた。
「そうなの?知ってた?」
今度は隣で手拍子を打つ奈々に尋ねる。
「ううん、知らなかった。でも、楽しいからいいんじゃない」
奈々は笑いながらそう答えた。
「あの、『テニスのお殿様』ってアニメがあって、元は漫画なんだけど。その中のイケメンキャラ達が『バレン○イン。キッス』のCDをキャラ毎に出してるんです。それで一部では男子が歌うの定番になってるんです。丁度安藤さん歌ってるのは、その中の忍手侑司の真似なのかな」
「あの粘ちっこく厭らしい歌い方って、真似なの?へ~、お前ら知ってた?」
舞の説明に物珍しく、熱唱する安藤を眺めてから、今度は舞の横と、奈々の横に座る佐藤と大内の方を見ながら、元秋は尋ねた。
「知らないけど、安藤は女受けするのは何でも詳しいからなぁ」
「はじめて聞いた」
口々に答える佐藤と大内。
「バレン○インデイ・キ~ッス! 恋の記念日~♪
シャラ○ラ素敵にキ~ッス シャラ○ラ素顔にキ~ッス!
シャラ○ラ素敵にキ~ッス! シャラ○ラ素直にキ~ッス! ♪
おわり~!」
汗を流し、大熱唱して、安藤は歌い終えた。
今日は二月十四日。日曜日のバレンタイン・デー。
時間は午後二時頃。
もはや御馴染みの面子(元秋・奈々・舞・安藤・佐藤・大内の六人)で、今日もまた、カラオケに来ていた。
「どうだった?俺の『バレキス』? 次は舞ちゃんだよ」
正面の一段高いステージになった所から降りながら、安藤はそう言い、舞の隣に座った。
「凄く良かったです~」
笑顔でパチパチ拍手をしながら安藤を出迎えた舞は、安藤が座ると直ぐに立ち上がり、今度は自分がステージの方に向かった。
「よおよお、お前舞ちゃんと出来てるの?」
真ん中の舞が居なくなるとすぐさま、佐藤は安藤の方に詰め寄り尋ねた。
「あ、どうだろう。仲がいいだけじゃないかな」
歌い終え、気分良く笑顔で答える安藤。
「なんだよそれ?あー、俺にその笑顔見せるなよ~まぶしい」
そう言いながらふざけて顔に手をかざし、眩しそうにしてみせる佐藤。
「はははは」
安藤の笑い声に、つられて元秋も奈々も大内も笑った。
そして舞は歌い始めた。
「江○の町は今日も深く 夜の帳かけて行く
○向いて 紅をひいて
応じるまま 受け入れるまま♪ 」
「舞ちゃんの歌は何?『吉原○メント』って?」
歌い出した舞に、奈々はモニターの曲名に興味を持って誰とはなしに尋ねた。
「感じからするとボカロじゃない?」
隣の大内が奈々の方を見て答える。
「惜しいな。厳密には某カロイド。重音○トさんの歌だね」
すかさず安藤も答える。
「へー、安藤そういうの詳しかったっけ?」
安藤の言葉に物珍しそうに元秋が言った。
「お前らの前で言わなかっただけ」
「あー!お前、舞ちゃんの趣味だろ?合わせるのに勉強しやがったな」
「てへぺろ」
隣の佐藤に突っ込まれ、舌を出して誤魔化す安藤。
「お前、ファンクラブとかもあってモテてるのに、舞ちゃんまで狙うのはズルイだろ。俺や大内見てみろ。可哀想だと思わないか?」
舌を出してふざけている安藤の肩に手を置いて、真面目な顔で佐藤は言った。
「ごめん。俺彼女出来た」
その時大内が、軽く手を上げ発言した。
「「「え~! 」」」
驚く佐藤と安藤と元秋。
「マジかよ~」
半分泣きそうな声で言う佐藤。
「ごめん。言うと、見せろ!会わせろ!って話になるだろ。だから言うタイミング計ってた」
頬を赤くして少し恥ずかしそうに大内は言った。
「良かったね!大内さん!」
隣の奈々が微笑んで言う。
「有難う奈々ちゃん!」
ニコニコ笑って答える大内を見て、更に落ち込む佐藤。
「だからさー、良かったじゃん佐藤。バレンタインの今日、こうやって皆で集まって。ほら、テーブルの上に舞ちゃんと奈々ちゃんからのチョコもあるじゃん」
そんな佐藤を見て、逆に肩に手を置き、安藤が言った。
「まーな。一人で今日を過ごすよりはいいかもな。確かに。ありがとう。舞ちゃん、奈々ちゃん。いただきまーす」
そう言うと佐藤は、テーブルの上の開かれた箱の中にある手作りのトリュフチョコを一つ手に取った。
「うん」
奈々は微笑んで答えた。
「偽りだらけの○愛 そして○を抱くのね
悲しいくらいに感じた ふりの 吉原今日は あ~め~♪
おわり~!」
「わー!舞ちゃんの歌、なんかHな歌詞だったね」
無邪気に拍手しながらそう言う奈々。
「こーゆー歌を歌うなんて、舞ちゃんも大人になっちゃったのか?安藤の所為でって、 痛え~!!」
安藤は、佐藤の頭を話の途中で拳骨で殴った。
「誤解を招く様な事を言うな。この歌はそれ以上に、悲しい歌なんだ」
「う~ん。どうだった。奈々」
満足そうな顔でステージから降りて来る舞。
「良かったよ。大人っぽかった」
拍手したまま笑顔で奈々はそう答えた。
「そお」
そう言われ舞は満足気に微笑んだ。
「あれ?」
その時元秋は、自分のスマホがポケットの中で震えているのに気付いた。
元秋は基本いつもバイブに設定していた。
「誰だろ?」
ポケットからスマホを取り出し、通知を見る。
「何?」
横から奈々も元秋のスマホを覗き込む。
一瞬元秋は拙いと思った。奈々の前で簡単にスマホを出すのは軽率だと思った。
万が一、早苗からの連絡だったら、何もなかったとはいえ、後ろめたい。
しかし、通知は別の人物からだった。
「あ、お兄ちゃん」
奈々が言った通り、それは、蓮梨惟人からのLINEだった。
「なんだろ」
中身を見る。
写真が一枚送られていただけで、文章はなかった。
その写真は、自室で撮ったものらしく。沢山のチョコの山の後ろに無表情の惟人の顔が写っていた。
「これは・・・自慢なのかな?」
いま一つ写真の意味が分らぬまま、元秋が言った。
「よーし。じゃあさー、元秋君も写真送ってやろうよ」
惟人からの写真を眺めていた奈々はそう言うと、突然元秋のスマホを取上げて、写真機能にして、安藤の方に差し出した。
「これで私と元秋君撮って」
奈々の言葉に安藤はニコニコしてスマホを受け取り、写真を撮る為に構えた。
その頃惟人は自宅の部屋で、机の脇にチョコを山積みにしながら、パソコンで何か調べ物をしていた。
日曜がバレンタインの今年は、金曜・土曜で前渡しされたチョコが山の様にあった。
-奈々や佐野君は、今日はどうしているんだろう?-
一瞬そんな事を思って、何となくあんな写真を送ってみたのだった。
それくらい今日は、静かでのんびりしたバレンタイン・デーだった。
春一番か。生暖かい強風が、僅かに開けた窓からカーテンを大きく揺らす。
ピン!
思わず外を眺めようとした時、スマホの着信音が鳴った。
おもむろにスマホを取り、開いて見たのは、元秋からのLINEだった。
「負けた・・・」
惟人は思わず呟いた。
そのLINEで送られて来た写真は、
少し驚いた表情の元秋の頬に、抱きついてキスをする奈々の写真だった。
おわり
元秋「あれ、また惟人さんからLINE来た」
奈々「なんだって?」
元秋「僕も行ってもいいですか?だって」
奈々「ありゃりゃ」
いつも読んで頂いて、有難うございます。
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