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番外編 色のない季節 ー早苗、ふたたびー (二)

 「だからね」

 そう言いながら紙袋の口を開け、中を覗き込み、手を入れて早苗は何かを掴んだ。

 「一緒にどうかなって思って」

 言いながら抜き出した手には、缶ビールと缶チューハイが掴まれていた。

 「お酒?」

 思わず驚いて元秋は声をあげる。

 「へへへへ、まだあるよ。二本ずつ。四本あるから。それとおつまみも少々」

 笑いながら早苗は言った。

 「鈴鳴さん、お酒飲むの?」

 ベッドの早苗の隣に座りながら、元秋は尋ねた。

 「彼氏年上だから、教わった。タバコも吸った事あるよ。佐野君、ビールとか飲んだ事ないの?」

 「当たり前じゃん!特にタバコなんて。俺、陸上部だぜ」

 「やっぱり。いつもつるんでる四人組の中で一人だけ妙に真面目に見えて、ちょっと浮いてるな~って思ってたら、やっぱりか。佐野君真面目なんだね~」

 「ちょっと浮いてるってなんだよ!つーか鈴鳴さん、学校じゃ真面目なイメージなのに。裏で何やってるか分ったもんじゃないな~」

 「フフフフフ、だって学校は詰まんなかったんだもん」

 元秋の言葉に、早苗は笑って答えた。

 「あれ、もしかして。もう飲んで来てる?」

 ヘラヘラ笑っている早苗の顔を見て、元秋は尋ねた。

 「ンフ。実は一缶飲んで来た。そうじゃなきゃ、男子一人の部屋に来れる?私だって恥ずかしいよ」

 「ああ、そう言う事か」

 下の受付で会った時の元秋の様子に心配して、でも素面で励ましに来る勇気がなくて、それでお酒を持って、酔っ払った勢いで来たのか。元秋はそう思った。

 「飲まない?」

 片手で上手に缶ビールと缶チューハイを掴みながら、それを元秋の前に差し出して、早苗は言った。

 その顔は良く見ると、頬を少し赤らめ、無理してこんな事をしてるのか、恥ずかしそうな表情だった。

 「部活はとっくに引退してるしな。いいよ。付き合うよ」

 笑顔でそう言って、元秋は缶ビールの方を早苗の手から取った。

 「あっ、ビール?お酒飲んだ事ないんでしょ。苦いよ。チューハイのがいいかも」

 慌てて早苗が言った。

 「え、いいよ。男はやっぱりビールだろ」

 「飲んだ事もないくせに~」

 そう言いながら、早苗は笑った。

 つられて、元秋も笑った。


 「なんだか、変な時間だね」

 「うん」

 飲み始めてから一時間程経っていた。

 「明日試験なんだよ」

 「うん」

 「まだ八時半だって。夜中の様な感じ。空気が澄んでる様な」

 「うん」

 「佐野君酔っちゃった?さっきから「うん」ばっかり」

 「うん」

 「・・・・・・」

 「うん。あ、いや、ごめん。違うんだ。考え事してた」

 「考え事?」

 「いや、考え事とも違うな。なんだろ?どうにかなるさという気持ちと、どうにもならないという不安。先が見えない不安と、その前の静寂な今。ホントにこの時期って、特殊だな。独特だなって思ってた」

 「お酒飲みながら?」

 「そう。お酒飲んで、二人で話して、ちょっとボーッとして。大学に進学する為にして来た勉強の時間と、もっとすれば良かったという後悔と、成績によって振り分けられて行く前の、今の時期と」

 「難しい事考えてるね。でもそうなのかな?私の宙ぶらりんな気持ちも」

 「鈴鳴さんの事は、俺には分らないよ。でも、同じ時間を生きてるなら、同じ様な焦燥感とか、虚無感とか、共有してるのかも知れない」

 「大学の受験者数って、五十万人以上いるのよ。その人たちが皆、私達の様に独特な空気を感じているのかしら」

 「皆が皆そうだとは思わないけど。大抵の人はやはり、少しでも上を望むんだろうから、きっと孤独感や、焦燥感を感じているんだと思う。今って、春を待つエアポケットなのかな」

 「あ、それ。私が言ってた言葉じゃない」

 「ごめん、そう。でもきっと、俺達だけじゃないんだ。この独特の空気に晒されてるのは」

 「そう思うと頑張れる?」

 「どうだろう。もう、頑張る時期は過ぎちゃってる様な気がする」

 「そお?」

 「だから明日試験なのにこうやってお酒飲んでるんじゃないのか」

 元秋は笑ってそう言った。

 「あは。そうだね」

 元秋の言葉に早苗もそう言って笑った。

 二人はお互いの顔を見合わせて笑っていた。

 


       つづく

 

 

いつも読んで頂いて、有難うございます。

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