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第十二話 とびら

今回で短期集中連載の1.5は終わりです。

元々の「彼女の音が聞こえる」から読んで下さった皆様有難うございました。


 アーケードを離れ、駅から遠退く様に歩く。

 惟人と奈々の歩く先は、段々と人通りが減っていった。

 いつの間にか雪はやみ、傘はたたんで手に持つ。

 気温が高いのか、降った雪はそれ程積もらず、シャーベット状になり、グシャグシャと歩く度に音を立てた。

 「まいったな。足元がグチャグチャだ」

 滑らない様に足元の革靴を見ながら、惟人は言った。

 「ホント」

 後ろから奈々が言う。

 「奈々ちゃん靴、大丈夫?」

 振り向くと転びそうなので、惟人は自分の足元を見ながらそう尋ねた。

 「大丈夫。中まで濡れてないし、思ったより滑らない」

 「そう、じゃあ良かった。それからね」

 相変わらず足元を見て歩きながら、惟人は続けて言った。

 「それから、その・・・さっきの彼に襲われて、キスされたの。あれは彼氏には言わない方がいい」

 その瞬間、奈々の足が止まった。

 それに気付いた惟人も立ち止まり、振り返る。

 「言う気だった?」

 「だって、嘘は付きたくない」

 真剣な顔でそう言う奈々を見て、惟人は少し困った顔をした。

 「本当の事を言ったら、彼氏は傷付いて、きっと悩むよ。何故自分はあの時奈々ちゃんを置いて逃げ出したのか。そうなる事だって考えられたのにって」

 「それでも、嘘は良くないと思う。元秋君には嘘は付きたくない」

 奈々は表情を変えず、頑なに言い張った。

 「じゃあ、言い方を変えよう。本当の事を言って、ホッとする、安心するのは、気持ちが軽くなるのは、奈々ちゃんじゃないかい?会って今までの事を謝りたいって言っている君が、本当の事を言って、彼氏を苦しめて、自分は楽になろうとしているように見えるよ」

 「そんな・・・でも嘘は・・・」

 奈々は上手く言葉が出なかった。

 「嘘は良くない?確かにそうだけど、自分を戒め、苦しめる嘘なら、そして彼氏を楽にしてあげる為の嘘なら、少しの間付いてもいいんじゃないか?」

 「少しの間?」

 「そう、せめて二人の関係が元通りに戻る位までは」

 微笑みながら惟人は言った。


 夜空は雲が流れ、先程までの雪が嘘の様に、星空がちらほら見え始めた。

 二人がいた公園からも、星が見えた。

 「見返してやりたいのかな?まだ別れた訳じゃないけど。アイツより上の大学に行きたい」

 「でも、自分の中で答えは出てるんだろ?もう別れたと思ってる。音信不通の彼氏とは別れたと」

 早苗の言葉に、そう元秋は言った。

 「そうなのかな。それで急に佐野君が気になりだしたのかな」

 「俺?」

 本当は少し分っていたけれど、元秋は驚いて見せた。

 「うん。アイツにちょっと似てるし、西女なんて偏差値の低い学校の娘と付き合って、この先如何すれば良いか分らず、大学も行きたい所が決められないで。佐野君、絶対人生落伍者になるって思った」

 「ひでーな。それ」

 元秋は笑うしかなかった。

 「でも、佐野君だけじゃない。彼女の為にも別れた方がいいと思ったの。遠距離恋愛になるだろうし、住む世界も違くなっていく。きっと私達の様になると思った」

 元秋は早苗の話を黙って聞いていた。

 「何のビジョンも持たない佐野君に、彼女と続けていける自信はある?例えば、進学校に入って大学に行く事が出来るのに、それまでの道を捨てて、彼女の為に就職か何かして、側に残る様な覚悟とかある?」

 「あるよ!奈々が側にいてと言うんなら、就職でもなんでもして側にいるよ」

 元秋は即答した。

 「高卒だと大卒より給料安いよ。昇進・昇給だって遅いかも知れない。お金に困るかも、生活が大変かも知れない。そうなると結局別れるかも知れない。それでも側にいるの?いたいの?」

 「それでも奈々が望むなら側にいるよ。先の事は分らない。でも、それは俺と奈々が考える事だ。鈴鳴さんが考える事じゃない」

 「彼女が好きなの?」

 「色々考える事はあるけれど、頭に来るときもあるけれど、それでも俺は、奈々が好きだ」

 早苗の問いに、元秋はキッパリと答えた。

 「そう・・・振られちゃったか」

 「えっ?」

 元秋は早苗の言葉に驚くと同時に、手で目の辺りを拭う早苗の仕草で、泣いている事に気付いた。

 「私帰る」

 早苗はそう言いながら元秋の側に寄って行く。

 直ぐ側まで来ると元秋の手を握り、早苗は顔を近付けた。

 「これで諦めてあげる」

 一言の早苗の言葉。

 そして早苗の唇が元秋の唇に触れる。

 雪の様に湿り気をおびた冷たい唇。

 元秋はなされるがままに固まっていた。

 触れたままの唇が微かに震え、早苗は何かを言っていた。

 「人が二人、こっちに来た」

 僅かにそう聞こえた。

 唇が離れる。

 「えっ?」

 元秋が聞き返す。

 「振り向かないで。誰かこっちに来てる。彼女かもね」

 そう言って、早苗は握っていた手を離し、そのまま元秋とは反対方向に歩き出した。

 「キス見られちゃったかもね」

 そう言い残して。


 歩いて公園から出ようとする早苗とすれ違う男女。

 奈々と惟人だった。

 早苗に言われた通り背を向けて立っている元秋。

 「こんばんは」

 すれ違いざまにそう言って会釈する早苗。

 「どうも」

 惟人が答え会釈する。

 奈々は少しずつ早足になり、駆け足になり、元秋の元へ駆け出して行く。

 「元秋君!」

 奈々の叫び声に元秋は振り返った。

 「奈々!」

 思わず元秋も叫ぶ。

 奈々が飛び込む様に元秋の胸に抱き付く。

 元秋も腕をまわし奈々を抱きしめる。

 「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 泣き声で叫ぶ奈々を、元秋は無言で抱きしめ続けた。

 そして奈々が元秋の顔を見ようした瞬間、元秋の顔が覆い被さった。

 二人の唇がゆっくりと繋がった。


 惟人は歩くのを止め、振り返り、先程すれ違った早苗の後ろ姿を眺めていた。

 優しく微笑んで。

 



          おわり

いつも読んで頂いて、有難うございます。

ブックマーク・評価・感想など頂けると励みになります。


今回はわざと中途半端感を残して終了と致しました。

次はクリスマス頃に短編で残った問題を書こうかと思います。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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