第十一話 恋い雪
「そう」
元秋がそう言った瞬間、早苗は急に立ち上がった。
「出よう」
そう言うと早苗は脱いで隣の椅子に置いてあったコートを手に取り、羽織り始めた。
「え、でもコーヒーが」
慌てて立ち上がりながら元秋は言った。
「遅い!私なんかミルクレープも食べ終わっちゃったよ。そんなだから、受験とか色々心配しちゃうんじゃない」
「え?」
コートに腕を通す途中で、早苗の言葉に元秋は動きを止めた。
早苗はしまった!という顔で、元秋から目線を逸らした。
「いいから出よう!ここから先は、人のいる所で話す事じゃないから」
「そうなの?」
「そうなの!」
早苗はそう言いながら、テーブルの脇の斜めにカットされた筒状の伝票入れから伝票を抜いた。
「あ、払うよ」
「いいから!」
元秋の言葉に即答して、早苗はスタスタと出口の方、レジの方へと向かって行った。
元秋は慌てて追いかけた。
駅周辺では、元秋の姿は見つけられなかった。
奈々と惟人は、駅構内、アーケードと、降りしきる雪を避けられる場所から探し回っていた。
「駅前にはいないのかな?帰るとも思えないけど」
「どうしよう・・・」
惟人の言葉に奈々は更に不安な気持ちになって行った。
元秋が自分の側から去って行ったのかも知れないという気持ちが段々強くなるにつれて、自分の何気ない行動が、どれ程元秋を苦しめていたのか。今更ながらに、奈々にも解り始めていた。
いつも一緒にいるのが当たり前になっていて、これから先も、ずっと一緒にいると思っていた人が、自分に愛想を尽かして去って行く。なんでこうなってしまったんだろう。なんでもっと優しくしなかったんだろう。奈々は、また震え始めた。
「寒い?」
その様子を見て惟人が言った。
「大丈夫。元秋君見つけなきゃ。見つけて謝らなきゃ」
「謝っても、許してくれないかも知れないよ」
「それでも見つけて、ちゃんと謝る。今日の事と、今までの事を」
惟人の眼鏡の奥の瞳が優しく微笑んだ。
「じゃあ、もう少し先を探してみるか。駅前にはいないみたいだし」
そう言うと惟人はアーケードの先を指差した。
「こんなトコにいたら、風邪引いちゃうよ」
コーヒーショップを出た二人は、そこから十分ぐらい歩いたマンションの立ち並ぶ地域の、公園に来ていた。
「なーに、風邪引くのが怖いの?」
誰もいない夜の雪の公園で、早苗は少し大きな声で言った。
「大きな声だすなよ。夜は響くんだぞ」
「いいじゃない。受験のストレス、発散!発散!」
そう言って、はしゃいで早苗はグルグル回り出した。
「だから声デカイって!」
「ははは、佐野君も大声出しちゃったじゃん」
回るのを止め、立ち止まって笑いながら早苗が言った。
「お前の所為だろ」
元秋は口を尖がらせ、拗ねた様に言った。
「ごめんね。私今、何かの中間にいるみたいで、おかしいんだ。丁度、エアポケットみたいな」
そう言う早苗の顔は、先程までのはしゃいで笑っていた顔から、静かに微笑んだ、優しい感じの顔に変わっていた。
「エアポケット?」
「そう。自分のしたい事とか、想いとか、全部押し殺して受験勉強してる。彼氏との事も、受験勉強を理由に決着つけてないし、佐野君の事に首突っ込むのも、受験勉強のきまぐれ。ホントは私は何がやりたいんだ。どうしたいんだ」
言いながら、早苗は軽く自分の頭を叩いた。
「彼氏より、上の大学に行きたいの?」
「うん」
元秋の言葉に、早苗は大きく頷いた。
そして降り続いていた雪は、いつの間にかやんだ。
つづく
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短期集中。予定より若干延びましたが、次回最終回予定です~




