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不幸少女、避難所は保健室です

「あ、おい座敷童子!」

「ひぃっ! 来ないで下さい!」


 あの衝撃的な出会いがあってからというもの、碓氷副会長は私を見掛ける度に声を掛けて来るので私は必死に逃げた。

 

 今日も今日とて現在進行形で彼から逃げている最中だ。ここのところ毎日私は彼に追いかけられている気がする。

 碓氷副会長について新たに分かったことと言えば、彼が学園で“残念な王子様”と陰で言われていることだ。容姿は雪之宮会長と負けず劣らず整っている美形であるが、何故彼が“残念な王子様”と呼ばれているのか。その理由は彼の家柄と性格にあった。

 碓氷副会長のお家は母子家庭で家計が厳しく、貧しい環境下で育ったが故にお金のことになるとがめつくなるらしい。

 貧乏人で兎に角金銭面に煩い彼は女子の夢見るお金持ちで優男な王子様とは掛け離れていた。ちなみに雪之宮会長の家柄は良いらしい。

 碓氷副会長は雪之宮会長のお家がお金持ちだから彼とつるんでいるのではないかなんて悪い噂も耳にしたが、本当かどうかは定かではない。

 家庭環境については仕方がないし、大変だとは思う。お金の大切さをよく分かっている点は素晴らしい。

 しかしだ。彼は少しお馬鹿というか、純粋というか、思考がメルヘンチックだ。彼の中での私の立ち位置は知っての通り座敷童子の生まれ変わり。座敷童子=家が繁栄すると直結に結び付けた彼は私と結婚すればお金に困らないと思ったのだろう。何とも傍迷惑だ。 家のために頑張る姿は健気とも言えるが、出来れば私を巻き込まないで欲しい。

 一度だけ座敷童子ではないと主張してみたものの、聞く耳を持たなかった。私が座敷童子の生まれ変わりだと信じて止まないのだ。むしろそこまで信じられるのが逆に凄い。

 聞く耳を持たない彼をどうする事も出来ず、やはり私の選択肢には逃げるの一択しか残されていなかった。

 

 廊下や中庭を駆け回り、遠回りになるが、なるべくこまめに曲がり角を曲がって避難所を目指す。引きこもりをしていた私の体力は著しく低下しているので正直辛い。それでも私は最後の力を振り絞り、避難所に駆け込んだ。


「どうした、怪我人か…… ってまたお前か、魔女っ子」

「はぁ…… はぁ…… っ。……か、かくまって下さい」


 勢い良く開いた扉に、中にいた人物は誰が入って来たのかを確認する。そして私だと分かった瞬間、呆れたように溜息をついた。

 白衣を身に纏い、クリーム色の肩までかかる髪を首元で緩く結んで人の良さそうな顔をしたその人物はこの学園の養護教諭、真嶋(ましま)(けい)先生だ。

 年配の先生が多い中、24歳である真嶋先生は生徒から人気が高い。……人気の秘密は人柄の良さと、大半は顔のようだけれど。用もなく保健室にやって来る女子も少なくはないらしい。

 私はと言うと、この保健室を避難所として利用している。

 真嶋先生の私の呼び方で分かる通り、彼は私の前世を知っている。そして、彼もまた、前世の記憶を持っているのだ。

 

 シンデレラに登場する魔法使い、それが彼の前世。つまりは私とは違い善良な魔女だった。今世では男性として生まれたみたいである。

 養護教諭でありながら生徒会の顧問も受け持っている理由は前世持ちの巣窟である生徒会を纏めるには同じく前世持ちの先生の方が適任だったからだろう。

 

 そんな真嶋先生との出会いはつい先日だ。その日も碓氷副会長に追いかけられていて、咄嗟に逃げ込んだ部屋が保健室だった。

 回転式の椅子を逆向きに座り、背もたれに腕を預けた真嶋先生は、私の顔を見るなり魔女っ子だと言った。

 何故知っているのかと驚く私に彼は至極簡単に前世持ちの生徒の個人情報なら一通り目を通したからと言う。曰く、彼は毎年入ってくる前世持ちの生徒をチェックしているらしい。

 確かに入学手続きの書類に前世持ちの人物のみ渡される紙があり、私はそこに自分の前世を書いた。その紙を回収しているのが目の前にいる真嶋先生という訳だ。

 彼ならこの学園にいる全ての前世持ちを知っているし、生徒会の顧問なので誰が王子であるかも分かる。駄目元で教えてくれないか聞いてみたが、やはり個人情報は教えて貰えなかった。


「まーたシンデレラに追いかけられたのか。しかし、魔女っ子が座敷童子の生まれ変わりって……。アイツは馬鹿だからな」

「な、何とかして下さいっ。先生はシンデレラの魔法使いですよね? あと、その魔女っ子って呼び方止めて下さい!」

「俺はシンデレラの魔法使いであって、シンデレラの王子であるアイツの魔法使いではないぞ、魔女っ子」


 真嶋先生は碓氷副会長のことをシンデレラと呼ぶ。私は魔女っ子で、雪之宮会長のことは白雪と呼んでいるので、前世持ちの生徒を前世と縁のある愛称で呼んでいるみたいなのだが、私としては止めて欲しい。

 何回も名字で呼んで下さいと頼んではいるが、魔女っ子呼びで定着しつつある。魔女っ子と呼ばれる度に嫌な顔をする私を見てニヤニヤと笑みを浮かべ楽しんでいる先生はSだ。


「で、お姫様の王子様探しというやつは進んでるのか?」

「……あまり進展はないです。先生が教えてくれたらそれで済むんですけど? 例えば生徒会メンバーでサボり癖のある生徒がよく訪れる場所とか」

「だから生徒の個人情報を教える訳にはいかないんだよ。あー…… まぁ、ヒントくらいなら別にいいか。魔女っ子、図書室に行ったことはあるか?」


 頭を掻きながら真嶋先生は私にそう聞いた。

 行ったことがあるも何も私は図書委員であるし、本が大好きなので貸し出しの当番じゃない日でも図書室に訪れている。そう私は真嶋先生に告げた。


「なんだ、ならもう会っているんじゃないか?」

「え……」

「図書室に入り浸ってる王子がいるぞ」


 それが誰なのかを詳しく聞こうとするも、もう碓氷副会長は追って来ないだろうから帰れと保健室から追い出されてしまった。

 図書室に入り浸ってる王子……。一体どんな人物なのか。

 図書室に来る生徒は大抵決まっていて、それ故に顔を覚えている生徒も多い。入り浸ってるなら尚更既に見掛けている可能性が高いだろう。

 明日は私が貸し出しの当番なのでちょうど良いチャンスだ。読者好きの王子を探してみるとしよう。

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