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不幸少女、入学します

 私立星霜学園。都会から少し離れた山奥にそびえ建つ新設高等学校。名門校や歴史ある学校ではないが、外観は勿論のこと、教室や廊下、施設諸々が綺麗で生徒から人気のある学校だ。

 女子の中には可愛らしい制服がお目当てで入る者もいるらしい。冬服はグレーのブラウスに黄色のネクタイ。フリルがあしらわれたパステルピンクのスカート。汚したら確実に目立つ白色のジャケットと、言わるゆるブレザータイプの制服。

 対して夏服は上下がセパレートタイプのセーラー服だ。涼しげな白地のトップスにパステルピンクの大きな襟元。胸元には淡いイエロースカーフ。冬服と同様、フリルのついたパステルピンクのスカート。

 確かに可愛い。可愛いが一言物申したい。可愛過ぎる。可愛い過ぎるのだ。

 私の顔面偏差値はお世辞にも良いとは言い難い。体型も普通。無駄に大きい胸や細いウエストにスラリと伸びた脚なんて持ち合わせていない。

 そんな私が可愛い過ぎるこの制服に身を包んだらどうなるか。お分かりだろう。制服を着ているというよりは着せられていると言ったほうが正しい。

 自分のサイズの制服が家に届いた時、試しに着てみた。そして鏡で自分の制服姿を見た瞬間絶望した。

似合っていない。両親も苦笑いである。伸びきった前髪を切れば大丈夫だとかそんなフォローはいらなかった。

 そもそも前髪を切るつもりはない。高校デビューでイメージチェンジは正直ハードルが高い。いきなりキャラクターチェンジもしんどい。後者は長く続かないだろう。何処かでボロが出るに違いない。

 今のままでも友達は出来る。……多分。


「それじゃあ、お母さん。……行ってくるね」

「行ってらっしゃい。荷物は夕方に寮へ届くようにしておいたわ。毎日連絡してね。それから長期休みは──……」

「お母さん、入学式遅れちゃう」


 玄関先でかれこれ10分は母に足止めを食らっている。まだ続きそうだった母の言葉を入学式に遅刻するからと強引に切り上げた。

 星霜学園は全寮制の学校なので母は余計心配しているのだ。何も遠く離れた地方の学校に行くわけではない。電車とバスを乗り継げば約2時間くらいだろう。 きちんと毎日連絡するからと母に告げて私は家を出た。外に出るのは久々だ。眩しい朝日に雲一つない青空と春の暖かな気候が私の入学を祝福してくれる……筈もなく、どんよりとした曇り空に太陽は隠れ、ザーザーと雨が降っているので肌寒い。

 やはり天候は私を見放した。入学式から傘を使う羽目になるとは。確実に雨だろうとは思ってはいたが。

 ジメジメとした天気に気分は右肩下がりである。



「最後に生徒会長挨拶、雪之宮(ゆきのみや)蒼馬(あおば)さん」

「きゃー王子ぃぃ!」


 時間通りに始まり、滞りなく進んでいた入学式。このまま終わるかと思いきや、突然講堂が黄色い歓声に包まれた。

 一体何事だ。二階席から聞こえたということは恐らく在校生の声だろう。私を含め、新入生達は二階席に目を向ける。そして目に入った光景に思わずあんぐりと口を開けてしまう。

 二階席はライブ会場と化していた。入学式なんて在校生にとっては面倒くさい行事にも関わらず出席率が高い理由はこれか。

 キラキラとデコレーションされたうちわには生徒会長さんの名前や王子と書かれていた。どんだけ人気なんだ生徒会長さん。

 壇上に登場した生徒会長さんを見た私はその絶大な人気を誇っている理由を目の当たりにした。

 ゆるくふわっとしたブロンド色のスイートマッシュヘア。ヴィヴィッドグリーンの綺麗な瞳に優しげな目元。柔らかな甘い微笑み。

 

……王子だ。王子がいる。この世にこんなに美しい人間が存在していたのか。

 

 目の保養とばかりに美青年を眺めていたらいつの間にか彼の挨拶も終わり入学式は幕を閉じていた。

 正直見とれていたので挨拶自体はまったく頭に入ってこなかった。私の周りにいる女子生徒達も惚けている。中には目をハートにさせてピンク色のオーラを纏っている子もいるではないか。

 恐ろしい。たった一瞬で女の子を落とすとは。彼に恋に落ちた人は何人いるのか。考えるだけでゾッとする。

 王子を巡る恋の争い。嫉妬に狂った女子生徒達。そこから発展する悪質ないじめ。私の頭の中でそんな方程式が立った。

 

 ……駄目だ。王子と関わったら私は確実に死ぬ。先程の歓声を聞けば一目瞭然だ。

 彼女達を敵に回したらいけない。尤も、3年生である王子との接点なんてゼロに等しいから大丈夫だろうけれど。

 ひっそり学園生活を楽しみたいので面倒事は避けて通りたい。切実に。

 生徒会長、雪之宮蒼馬。私の近付いてはいけない危険人物リストに早くもランクインした。

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