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不幸少女、人生のやり直しを決意します

 私の名前は黒咲( くろさき)真央(まお)

来年の春から高校生。世間では花の女子高生とか言ったりするらしいが、恐らく私には無縁だ。

 今現在、私は言わるゆる引きこもり少女と化していた。

 

 両親から衝撃の事実を突き付けられてからというもの、私の人生は大きく変わった。勿論悪い方向に。

 何もないところで躓いたり、転んだりするのはまだ良いとしよう。そんなのは人生が変わる程のことではない。ドジっ子で済まされる。

 だがしかし、コンビニで万引き犯に間違えられたり、狂犬に追い回されたり、車やバイクに轢かれそうになることも沢山あったのだ。

 そしてどうやら私は天候にも見放されたらしい。私が休日に出掛ける時は毎回雨。

 学校行事は尽く潰れた。学校で起こった対人関係のいざこざも最終的には何故か私のせいと言うことで丸く収まる始末。

 無実だと訴えても教師は私の言うことに聞く耳を持たない。被害者ずらして泣きじゃくる女子生徒の肩を持つのだ。


 口元が笑っていたし、どう考えても嘘泣きなのに……。

 顔か? 顔なのか? 美少女には甘いなんて理不尽過ぎる。


 いつしか「あの子といると不幸になる」「クラスのマドンナに嫉妬して怪我させたらしい」「この前万引きしていた」などなど、悪い噂が一人歩きして流れ、気が付いた時には友達はいなくなり孤立。めでたくいじめのターゲットに。

 机には暴言が書かれ、教科書や上履き、体操着は何回買い変えたことだろう。


 自分でも思う。

 不幸過ぎるだろう! 一体私が何をしたと言うんだ! 


 私は考えた。何故こうも不幸な目に遭うのかを。考えて、考えて、やっとある一つの仮説を導き出した。

 これは神様が前世で悪さをした魔女()への嫌がらせであると。

 散々人を貶めて来たツケが今世の私に回って来たのではないだろうか。不幸体質という呪いを掛けられたに違いない。

 前世の私を酷く恨む。なんてことをしてくれたんだ。

 

 元々表情の乏しい子供であったが、それが更に悪化。表情筋とは二年前くらいにおさらばしたと言っても過言ではない。

 否、あるにはあるのだろうが、表に出にくくなったのだ。

 

 もう私の人生は詰んだ。


 何もかも投げやりになり、やさぐれて中学二年の半ばにはとうとう学校に行くのをやめた。そこから私の引きこもりライフが始まったのだ。

 中学校生活とは打って変わって楽しいものだった。朝昼晩、母の美味しいご飯が食べられるし、一緒に料理も作れる。ここ数年で料理の腕前は確実に上がったと思う。

 好きなことを好きなだけしてられるなんて快適だ。

 とは言えきちんと勉強もしている。それが両親との約束だった。学校に行くのが嫌なら無理に行かせないけれど、せめて通信教育だけはやりなさいと言われたのだ。

 傍から見れば些か甘やかし過ぎだと怒られるかもしれない。私が前世持ちという特殊な生まれ方をした為、二人は責任を感じてしまっているのか、兎に角私に甘かった。

 別に二人が悪いわけではないけれど、私はありがたく甘やかしてもらうことにしたのだ。後数年は引きこもりライフを送るつもりである。

 そう、その筈だったのだ。


「ねぇ、真央。高校は星霜(せいそう)学園に行ってみない?」

「え……」


 今日も今日とて自室のベッドで引きこもりライフをエンジョイしていると、コンコンと扉を叩く音と母の声が聞こえ、私は締まりのない返事をする。

 私の返事を聞いた母がカチャリと扉を開けて部屋に入って来た。片手には何やらパンフレットらしきものを持っていたので、興味本位でそれが何なのかを聞いてみる。そして直ぐ様私は聞いたことを後悔した。

 渡されたのは高校のパンフレットだった。高校なんて端から行く気のなかった私は眉を顰める。私としては眉を顰めているのだが、実際表情に現れているのかは自分で分からない。

 尤も、目が隠れるくらい伸びている前髪が邪魔して誰も確認することは出来ないのであるが。


「星霜学園はね、三年前に出来たまだ新しい学校だからとっても綺麗なのよ。制服も可愛いし、施設も充実してるわ。図書室なんてすっごく大きいの。真央、本が好きでしょ? それにね、ここ見て」


 母が指さした記事を読んだ私は目を見開く。そこには《おとぎの国》の記憶がある生徒も快く歓迎しますと小文字で書かれていた。殆んどの人が見逃すか、又は何を言っているのか分からない文章。


「お母さん気になってね、学校に問い合わせてみたの。そしたら在学生にいるらしいわよ。真央と同じく、前世の記憶がある生徒が。だから行ってみない?」


 自分だけじゃなかった。単純にそれが嬉しかった。自分と同じく前世の記憶を持っている子が本当にいる。

 会ってみたいと少しばかり心が揺らいだが、今更学校に通うのは抵抗があった。

 中学生の時の出来事を思い出して私は布団を被る。敵意や憎悪のある目、そして何より私を見下して嘲笑う生徒が怖かった。夢の中に現れるあの魔女()と同じ。


「……真央ちゃん、お母さんね、このまま引きこもったままでいるのはやっぱり駄目だと思ったの。真央ちゃんはもっと人と関わるべきだわ。ゆっくりでいいから。この学園に行けばきっと素敵な出会いがあると思うの」

「でも…… 私と一緒にいたら不幸になる」

「あら? お母さんもお父さんも一度も不幸になったことなんてないわ。世話の掛かる可愛い娘。貴女は黒咲真央。前世では悪い魔女だったとしても関係ない。前世に縛られず、今を生きなさい」


 母の言葉に目頭がツンっとした。久々に現れたその前兆に抗う術もなく、大量の涙が目から零れ落ちる。涙の止め方を忘れた私は嗚咽混じりに学校に行く旨を伝えた。

 ぽんぽんと布団越しから私のお腹辺りを赤子をあやすかの如く優しく叩く母。布団から少しだけ顔を出せばそこには暖かな笑みを浮かべている母が目に入った。

 確かにこのままじゃ駄目だ。呪いに打ち勝てるくらい強くならなけらば。

 こうして私は星霜学園で人生をやり直す事を決めたのだった。

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