1.必然に導かれた2人
□ 第1章 必然に導かれた2人 □
シェイド・ヴィーナスレイド。
それが彼の名。
彼は、独りでいる時間を楽しみとして生きてきた。
人の、仮面に貼り付けたような笑顔、嘘くさいお世辞…その全てを嫌っていた。
人を大のつく程嫌っている彼は、必要以上には他人と関わらず、目立たないように生きてきたつもりだ。
しかし、そんな彼の心とは裏腹にシェイドは有名だった。
それもその筈、彼はヴィーナスレイド公爵家の跡取りであり、加えて容姿端麗だ。
整った顔立ちにサラサラの銀髪、スラリとした長身に美しい声。何もかもが誰をも魅了するのだった。
一度でも会ったことがあろうものなら、会った全ての人々が彼の虜になるだろう。
彼自身もそう思っている。自意識過剰などではない。実際がそうなのだ。
人間なんて所詮、外見さえ良ければ好かれる。
そんな陳腐なものだ。
それに、金や権力があれば、大抵のことは上手くいく。人ひとりの心を手に入れることなど、服を着ることのように容易い。
━━こんな世界、つまらない。もう飽きた。
「 貴方がシェイド・ヴィーナスレイド? 」
うたた寝をしていると、突然後ろから(正確には横から)声をかけられた。
今まで聞いてきた人の声の中で、一番澄んでいて耳に残る声だった。
「 …だったら何?俺はキミのことを知らない。」
こんな声聞いた覚えはない。
目を開けると、そこには小柄の少女がいた。
腰よりも長い金髪をおろし、黒いフードを被った少女がジッと立っている。
しばらくして、少女はゆっくりと口を開いた。
「 …私も、貴方の名前と顔しか知らない。」
少女はフードを被ったまま、こちらから目を逸らさない。
「 名前は? 」
「 …そうですね、通りすがりのアウル、と名乗っておきます。 」
アウル…つまりフクロウ。本名ではないだろう。
何処かの令嬢か、この屋敷に仕えにきたメイドか…もしくは、俺を殺しに来た暗殺者か。
少なくとも、令嬢ではないだろう。黒いフードを被った令嬢を俺は知らない。
「 用件は?俺に恨みでもあるのか。 」
メイドがこんな口を聞くわけがない。
そうなれば選択肢はひとつだ。
しかし少女は、身動きひとつせず答えた。
「 恨みなんてないわ。 」
少女の目は嘘をついているようには見えない。
「 誰かに頼まれたのか?金で雇われた暗殺者か。女を選んだのは隙を突く為か。 」
「 それも違う。 」
ふいに、少女の金髪が揺れた。その時チラリと見えたのは、犯罪者が押される烙印。
「 …じゃあ何? 」
「 ここで働きたい。雇ってくれる人がいないからここに来た。 」
そりゃあ犯罪者を雇う馬鹿はいないだろう。
少女を無視してまた眠ろうとした。
ここで殺されても別にいい。殺されるのは怖くない。目を瞑ってそのまま眠りにつこうとした。
すると、グイッと腕を引っ張られソファーから落ちそうになったと思ったら、少女に倒れ込むようによろける。
「 …ッ…!!何をする!?キミが雇われないのはこんなふうにしているからなんじゃ… 」
最後まで言う前に、フードが脱げた少女の方を見たら言葉が出なくなった。
少女はとても言葉では言い表せないような綺麗な顔をしていた。俺は、生まれて初めて“ 美少女 ”というものに出会った。
もしかしたら、この時すでにこの少女に
恋してしまっていたのかもしれない。






