第11章 2話目
「羽月、おはよう!」
「よっ、市山。朝早くからありがとう」
今日はいよいよ文化祭。
出し物の準備のため早めに学校へ来ると校門で市山に出会った。
「いや、俺こそ楽しみだよ。何せ文芸部の綺麗どころはぶっちぎりのトップレベル揃いだからな」
卓球部の市山は文化祭の今日、早めに登校する必要はないのだが、僕が文芸部の手伝いを頼んだのだ。
「ホントに助かるよ。僕ひとりで裏方なんて絶対に回せないし」
予定では喫茶の裏方は僕ひとりでやる事になっていた。勿論適宜みんなが手伝ってくれるだろうが、よく考えると今日は覇月ぺろぺろりんのサイン会もある。そう考えるともうひとり裏方専属が欲しいわけで、仲がいい市山に頼んだってわけだ。
実は、僕は未だにぺろぺろりんの正体を明かしていないのだ。
「あいつら裏方にもへんな衣裳を用意してるみたいなんだ。我慢して着てくれ」
「分かってるよ。小金井と大河内がいるんだ。覚悟はしてるよ」
市山とふたりで物理教室へ向かう。
文芸部の『ざんねん喫茶』は物理教室を借りていた。水道も火も使えて本校舎の三階という好立地も見逃せないポイントだ。
「翔平くん、おはよう! あっ市山くんも手伝いありがとね!」
ピンクのリボンがアクセントの可愛いセーラーワンピースを身に纏い、笑顔満開の小金井が手を上げる。
「おはようございます~ 市山さん、お手伝いお願いしてごめんなさいね~」
白が眩しいメイド服姿の大河内もほんわりと笑いかける。
「羽月先輩、市山先輩、おはようございます!」
立花さんの衣裳は小金井の対になる青いリボンのセーラーワンピース。くりっと大きな瞳は嬉しさを隠さない。
「部長、市山先輩、おはようございますですっ!」
ランドセルを背負った深山さんも元気いっぱい…… って!
「深山さん、何その格好!」
「知りませんか? 名崎市の名門、純誠女子大付属小学校の制服ですっ! 可愛いでしょ!」
確かに似合う。小柄で幼く可愛らしい顔立ちにマニアうけしそうな控えめすぎる胸。笑ってしまえるほどに似合っている。しかし、だ。
「なあ、ロリってのは色々問題あるんじゃないか? 青少年保護法とか風営法とか電波法とか……」
「あかねは電波法の管轄なんですかっ! 電波で悪かったですねっ!」
「いや、そう言う意味じゃ、あるけど」
「分かりました。じゃあランドセルはやめてスク水にしますですっ!」
「いや、僕が悪かった。ランドセルいいよ。うん、最高だよ!」
「でしょっ!」
花開くようににっこり微笑む深山さん。
「羽月部長、あんまりあかねちゃんをいじめちゃだめっすよ。さあ、先輩も着替えてくださいっす」
黒いタキシードの執事姿をした月野君が指差す先を見ると、小金井が僕と市山の衣裳を持ってにっこり微笑んでいた。
「はい、これが裏方さんの衣裳よっ」
濃紺の地に赤い縦線が二本入ったシャツに同じ配色の短パン。一見派手な体操服のようにも見えるが、これって……
「卓球のユニフォームじゃん!」
市山が叫んだ。
「さすが市山くん。よく分かったわね」
「卓球部なめるな! でもどうして卓球のユニフォームなんだ! 地味すぎて誰も気が付かない空気になるぞ!」
「だって、翔平くんも中学時代は卓球部だったんでしょ! 似合うと思って!」
「弥生さんは~ 羽月さんの卓球ユニフォーム姿が一度見てみたかったらしいです~」
どうしてそんなものを見たいんだ、と思いつつ。
「そうか。まあ地味な裏方にはぴったりかもな」
「そんなことないって。かっこいいじゃない! 翔平くんは全国一千万の卓球愛好家を敵に回すつもり?」
「そうです、中学時代の羽月先輩のユニフォーム姿、かっこよかったです」
中学時代、僕が卓球してるところ、見られてたの?
「ねっ、繭香ちゃんだけ見たことあるってずるいよね。他のみんなも見る権利があるわ」
小金井は笑いながら僕と市山に卓球のユニフォームを手渡す。
僕なんか市の大会でも二回戦突破が精一杯の下々のモブ系運動部員だったのに。
なんで今更卓球のユニフォームを……
「羽月、着替えに行こうか!」
市山が僕の背中を押す。
「市山、ヘンな格好をさせてごめんな」
「女子テニス部はテニスウェアを着て接客するんだろ。だったら俺はこれでOKだ」
市山とふたり着替えのために文芸部室へ向かう。
「文芸部のみんな、すごく早くから来てたんだな。俺らが最後だったもんな」
「ああそうだな。張り切ってるんだ、みんな」
良く晴れた秋空の下をふたりで歩いていく。
「ところで、今日の文化祭で文芸部とラノベ部が勝負をするんだって?」
「えっ! それ、どこで聞いた?」
「俺は星野から聞いたけど、もっぱらの噂だよ」
星野のヤツ、そんなこと言いふらさなくてもいいのに。
「負けた方は同好会へ格下げなんだって?」
市山の言葉に、僕は小さく肯く。
「頑張らなきゃいけないな」
「ありがとう、市山」




