第11章 1話目
第十一章 気分次第で誉めないで
ちゃ ちゃちゃっ ちゃ~
ちゃ~ ちゃ ちゃ~
携帯から泥棒が主人公の著名アニメテーマ曲が鳴り響く。
「なんだよ、こんな朝早くから……」
僕は布団の中から手を伸ばし、枕元に置いてある携帯を見る。
件名:弥生は今日も平常運転
本文:朝刊に文芸部が出てるわ。
小金井からだ。
僕は壁に掛けてある時計を見る。
早朝5時だ。窓の外もまだ真っ暗。
「張り切ってるな、小金井……」
僕の脳裏に一昨日の彼女の言葉が蘇る。
「ねえ翔平くん、文化祭が終わったら、あたしとデートしてくれない?」
あの小金井が。
明るく美人でスポーツ万能、男子生徒の憧れの的。
布団の中で想いを巡らす僕に、そうはさせじと携帯が鳴り響く。
「もう、まだ5時だろ……」
携帯を開くと今度は立花さんからだ。
件名:この記事
本文:宮脇さんの援護射撃ですね。
写真ちょっと恥ずかしいですけど。
何のことだ?
僕は布団から這い出すと階段を下り新聞受けに手を突っ込む。
しかし、その間にも携帯は鳴り響く。
件名:やばいっす。
本文:月野っす。こんな使い方されるって知ってたら、
あんなラブリーなポーズしなかったっす。
月野君のメールを読みながら居間の明かりを点けるとソファーに座って新聞を広げる。
一面、二面、三面……
どこだろう。文芸部が出て、宮脇さんの援護射撃、となると地方欄かな。
…………
「これか!」
僕に記事を読む隙を与えず携帯がまた鳴る。
件名:あかねです
本文:月野さん、ラブリーです。でもきっとみんなスルーです。
携帯を閉じると僕は新聞に目を通す。
本日の行事
松院高校文化祭『松波祭』(10時~18時30分)
本紙日曜朝刊の人気連載小説「ロコドル探偵ぽてちん」を書いている
文芸部の皆さんも「ざんねん喫茶」で艶やかなコスプレ姿を披露するとか。
また人気ラノベ作家「覇月ぺろぺろりん先生」のサイン会も。
記事の横には僕ら文芸部員の集合写真。白黒だけど、みんなしっかり映っている。
そしてその写真の月野君は右手の中指を突き上げてドヤ顔をしていた。
「これか……」
どこがどういう風にラブリーなのか全く不明だった。
しかしこの写真、喫茶・シュレディンガーの猫で宮脇さんが撮ったものだけど、記事に使うつもりだったんだな。
また僕の携帯が鳴る。
件名:今日の文化祭
本文:こんな宣伝してもらって~ 幸先がいいスタートですね~
大河内の言う通りだ。宮脇さんありがとう。松校の文化祭も、そして文芸部もこんなに宣伝してくれるなんて。絶対期待に応えなくっちゃ。
件名:Re今日の文化祭
本文:宮脇さんの期待に応えるためにも頑張ろう。
そのために、僕はもう一度布団に入る。
これで送信、っと。
さあ、もうひと寝入りしよう。
「お兄ちゃん、今日は何の騒ぎ?」
「あっ、ごめん。うるさかった?」
「ううん、別にいいけど……」
しまった。
携帯が鳴りまくったせいで、桜子が起きて来てしまった。
ピンクのパジャマ姿のまま、彼女は僕の横に座ると広げてあった新聞に目を落とす。
「うわっ、凄いじゃない。お兄ちゃんの写真出てるし!」
桜子の眠そうな顔が一変した。面白い物を見つけたって表情だ。
「そうか、今日お兄ちゃんの学校、文化祭なんだ」
「うん。ちょっと前にも言ったと思うけど」
「これってわたしも行けるんだよね。ねえ、行っていいかな」
突然目を爛々(らんらん)と輝かせる桜子。
「勿論いいけど。でもたいして面白くないぞ」
「うそっ。面白そうじゃん。ざんねん喫茶とか。繭香先輩もコスプレするんでしょ!」
「コスプレって言われりゃそうだけど。部員はみんな痛い格好すると思う」
「じゃあ絶対行く。それにぺろぺろりん先生のサイン会って、お兄ちゃん遂にカミングアウトするんだ。「僕が噂のぺろぺろりんだ~!」って」
手のひらを顔の横に広げて、おどけた顔をする桜子。
「まあ、カミングアウトって言われりゃそうだけど、「ぺろぺろりんだ~」なんて言い方しないよ」
「100パーセント行く! デジカメ持って行く! 絶対面白そう」
そう言い残すと、桜子は鼻歌を歌いながら自分の部屋へと戻っていく。
何だか目が冴えてしまった。
今日は文化祭で早めに登校しなくちゃいけないし、少し原稿の続きでも書こうかな。




