表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第十章 文化祭に願いを込めて
97/129

第10章 13話目

 立花書店の入り口から入ってきたのは、すらりとした綺麗な肢体に赤毛のツインテールがよく似合う美少女だった。


「小金井!」

「弥生先輩!」


「何だかいい雰囲気のところ、ごめんなさい。ちょっと買いたい本があったことを思い出したの」

「そんな、ごめんなさいだなんて。いらっしゃいませ弥生先輩」


 少し戸惑い気味だった立花さんは、しかしすぐに笑顔で応対する。 

 小金井は真っ直ぐにコミックスのコーナーに歩いて行くと一冊の本を手に取った。


「繭香ちゃん、これちょうだい」

「はい先輩、ありがとうございます」


『ぶりきのせんめんき』。


 少女向け、と言うより、もう少し大人向けのコミックスのようだ。

 僕は支払いを終えた小金井と一緒に店を出る。


「羽月先輩、弥生先輩、お買い上げありがとうございました。またお待ちしています」


 いつもと少し調子が違う声を背にふたり帰路につく。


「ねえ翔平くん、少し遠回りして帰らない?」

「ああいいよ」


 ふたり並んで、しかし少しだけ距離を置いて僕たちは川中町の方へ歩いて行く。


「とっても楽しそうだったわね」

「あ、うん。立花さんって結構面白いよね」

「そうね……」


 そう言うと口をつぐんだ小金井。

 無言のまま暫くふたり歩いて行く。


 何を話せばいいんだろう。


「あの」

「あのっ」


 二人は同時に口を開く。


「翔平くんから、どうぞ」

「えっ、いや小金井からどうぞ」

「ううん、翔平くんから」

「……」


 セーラー服からすらりと伸びる細い脚に黒いニーハイ。

 右隣を歩く小金井は切れ長の吊り目がちな瞳で優しく僕を見つめる。


「いや、さ。いつもありがとう」

「えっ、何が?」

「今日だってほら、ぺろぺろりんの本を事前に読まなきゃって気が付いてくれたり、いつも助けられてるだろ」

「そんなの当たり前じゃない」


 後ろ手に鞄を持って少しおどける小金井。


「あたしは翔平くんの補佐官なんだから」

「補佐官、と言うより指揮官だよな。それも飛び抜けて優秀な」

「もう、違うわよ。指揮官は翔平くんでしょ!」


 くすりと笑う小金井は、もう暮れてしまった空を見上げる。


「翔平くんって少女漫画を読むんだ」

「あれは……」


 立花さんがエロ本マイスターを名乗って、その流れでお勧めのコミックを教えて貰ったんだけど、その事は立花さんとの秘密だ。


「……時々ね。僕には妹がいるから、彼女も読むんだけど」

「なるほど、妹さんがいるからか。あたしにも弟がいるけど、あたしの買ってきた少女コミックを読みまくってるわよ。最近は自分でも買ってきてるみたい。あたしには隠してるけど」

「別に隠さなくてもいいのに」


 僕は桜子にも家族にもおおっぴらに少女漫画を読んでいる。ま、僕の場合はそれ以前に「覇月ぺろぺろりん」と言う顔を持ってるから、最早隠す顔などないのだけど。


「そうでしょ! 今度ベットの下とか探してやろうと思ってるの」

「ダメだよ! そんなことしたら大変なものが発掘されたりするから」

「大変なもの?」

「そうだよ。男のベットの下には魔物が住んでいるんだ。異形のバンパイアとか魔界のドラゴンとか、あり得ないほど短いスカートを穿いた妖精とか、透明の十二単を身に纏う紫式部の生まれ変わりとか」

「何となく分かるわ、その魔物の正体が」


 小金井は意地悪そうに僕の顔を覗き込む。


「翔平くんのベットの下にも住んでいるんでしょ、その魔物」

「えっ、それは、その……」

「隠さなくてもいいじゃない。あたし、翔平くんはどんな魔物が好きなのか知りたいな」


 三日月を仰ぎながら言の葉を紡ぐ小金井の笑顔はどこか儚げに見えた。


「そんなの知ってどうするんだよ」

「さあ、どうしようかなっ」


 目の前に川中町の公園が見えてきた。

 ふたりは申し合わせたように公園に向かう。

 日も暮れた公園にもう人影はない。


「昔、この公園に気になる男の子がいてね、あたし何度か意地悪したことがあるの。その子がブランコに乗ろうとしたら先回りして取っちゃったり、砂場で山を作っていたら、その横にもっと大きな山を作って邪魔したり。今考えると可愛い悪戯よね。でも全部軽くスルーされちゃったわ。覚えてないよね、翔平くん」

「えっ! 僕?」


「そうよ。だからあたし、高校に入って部活勧誘でたくさんの先輩達に取り囲まれていたとき、翔平くんが助けてくれたの、凄く嬉しかった。翔平くんと同じ文芸部に入るのに、これっぽっちも迷いなんてなかった。文芸部に入って本当に良かった……」

「……」


「ねえ翔平くん、文化祭が終わったら、あたしとデートしてくれない?」

「えっ!」

「翔平くんが好きなところなら、あたしはどこだっていいわ。だから、お願い」


 小金井は少し俯き加減に、しかし懸命そうに僕を見つめる。


「ありがとう。分かった」


 首を縦に振りながら、突然のことに僕はそう言うのが精一杯だった。


 第十章・文化祭に願いを込めて、いかがでしたでしょうか。


 えっ、まだ文化祭始まっていないじゃないかって?

 まあ、願いを込める迄ですから許してください。


 ついにふたりの「秘密の現場」に乗り込んだ小金井弥生。

 天性の鈍感力も最早ここまでか。ついに小金井の気持ちを知った翔平くん。

 しかし、小金井とのデートの前に立ちはだかるのはラノベ部との勝負。


 さて、次回はいよいよ文化祭に突入します。

 ラノベ部との勝負の行方もさることながら、遂に明かされる覇月ぺろぺろりんの正体。学校のみんなに正体明かして大丈夫か、翔平くん! ともかく物語は一気にクライマックス、かも知れません。

 そうそう、桜子ちゃんの恋の行方も急展開の予感がするっちゃ。


 次章「気分次第で誉めないで(仮)」も是非お楽しみください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼやき、つっこみ、ご感想はお気楽に!(はあと)
【小説家になろう勝手にランキング】にプチッと投票
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ