表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第十章 文化祭に願いを込めて
95/129

第10章 11話目

「準備はほとんど終わったわね」


 部活の帰り、みんなで日の出町商店街を歩いて行く。

 文化祭でサイン会を依頼している覇月はつきぺろぺろりん先生の本を買って帰ろうと言うことになり、学校帰りにみんなで立花書店に行くことになったのだ。


「久しぶりね、繭香ちゃんのお店に行くの」

「そうですね、あの時は雑誌とコミックを買っていただいたんですよね」


 小金井も立花さんの店には何度も訪れているらしかった。

 もう辺りは薄暗くなっている。

 いつもの路地に入ると、少し先に立花書店の灯りが目に入った。


「へえ~ 立花さんのお家って本屋さんだったんっすね」

「うちの祖父の店ですけどね」


 月野君は知らなかったようだ。

 通りの様子や店構えなどを珍しそうに見回している。

 店の入口、お勧め本コーナーには『魔王がエロ本屋で大赤字を出しまして』がまだ五、六冊積まれていた。


「これです、これがぺろぺろりん先生の本です」


 立花さんが一冊手に取ってみんなに見せる。

 表紙のイラストは魔王の娘がエロ本を差し出しながら笑っている絵だ。


「すごく痛そうな本ですね~」


 そう言いつつも何故か嬉しそうな大河内。


「繭香ちゃんのお店、ぺろぺろりんって人の本をお勧めコーナーに置いてるんだ」

「はい、わたし本当に好きなんですよ。弥生先輩にも気に入って貰えると思います」


 小金井、大河内と深山さんはそれぞれ本を手に取りレジへ向かう。


「いらっしゃい。まゆちゃんのお友達ですか、いつもありがとう」


 レジに座っていた初老の紳士はにこやかにそう言うと立ち上がって本を受け取る。


「こちらは学校の文芸部の皆さん、いつもお世話になっているんです」


 立花さんのおじいさんは小金井達と談笑しながら本を袋に詰めていく。

 ふと気が付くとレジの前に初めて見る貼り紙があった。

 文字だけで書かれた地味な貼り紙だ。



 『睦月真結作「秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!」予約受付中!』



 珍しいな。この店で予約の貼り紙なんて初めて見た気がする。

 レジに立つ立花さんのおじいさんが誰にともなく語りかける。


「今日はこの「魔王が何とか」と言う本がよく売れますね。さっきも同じ制服を着た女の子が買っていったんですよ」


「それってテニス部の柳崎先輩かも」

「きっとそうっすよ。こんな痛い本、普通の女子高生は読まないっす」


 悪かったな、月野君。


「じゃあ、家に帰ったら早速読んでおかないとね。こんな痛そうな本でも顔出しでサイン会をしてくれるありがたい作家さんですからね!」


 小金井の言葉が僕の胸に突き刺さる。

 悪気がないどころか、彼女は部のためを思って行動してくれているのだ。恨む気にもなれず、矛先は全て自分の胸に向かって、僕の心はズタズタだ。


「この本は一気に読めそうです~」

「あかね、この絵師さんも凄く気に入ったですっ」

「可愛い絵柄に低すぎるアングルがググッとくるっすよね!」


 みんな嬉しそうに買ってくれる。お前らみんないいやつだな!


「わたしも作家さんにお会いできるのが凄く楽しみですっ」

「単なる痛い二次元くんだと思うっすけど……」


 月野君の言葉に僕以外のみんなは笑って店を後にした。


          * * *


 文芸部の仲間と別れたあと、僕は家には帰らず、ぶらぶらと商店街を歩いていた。

 立花さんとの約束は三十分後。

 中途半端に時間があるから普段入らないファンシーグッズの店に入ってみる。

 オリジナルらしい可愛いカエルのキャラクターが描かれたクッションや整理ボックスが目に入る。小金井が鞄にぶら下げているマスコットと同じキャラクタだ。

 去年の春、一緒に文芸部に入った彼女はいつも元気で前向きで、周囲に明るさを振りまいていた。今年になっても部長の僕が気付かないところをテキパキとフォローしてくれる。本当に頼りになる。かなり強引でムチャぶりすることもあるけど、友達思いの優しい女の子だ。


「小金井って完璧だよな……」


 つい独りごちる。

 そんな小金井とふたりっきりでデートができたら。

 そりゃあ嬉しいに決まっている。

 立花さんとデートするのと、どっちが嬉しいかな。

 立花さんも優しくて気が利いて完璧なんだよな。


 って、どうしてここで立花さんが出てくるんだ。


 彼女からはエロ本を買って軽蔑されているに違いないのに。

 けど、もしかしたら立花さんはそんなこと気にしてないのかも知れない。

 彼女はそれらしいことを言ってくれたし。

 ああもう、何が何だか、頭が混乱してきた。


 でも、明後日には僕の正体がばれて、小金井からも立花さんからも軽蔑されるんだろう。

 どうせ僕は『覇月ぺろぺろりん』だ。

 ふざけたペンネームを持つ恥知らずの下ネタギャグ作家だ。


「このキーホルダーのマスコット、かわいい~」


 声がする方を見ると、女子高生らしい二人組が何かを指差している。

 それは親指大の小さなマスコットがついたキーホルダーだった。

 二人が去ると僕はそれを見てみる。

 いびつな形に可愛らしいふたつの目。頭から長い毛が一本生えている。

 『ミドリムシくん』と言うキャラクターらしい。

 頭から伸びている長い毛は鞭毛べんもうらしい。


 何だか愛嬌があるマスコットだな。そうだ桜子に買っていこう。

 僕はそれを買い求めると、マスコットが入った紙袋を鞄に入れて店を出る。

 立花さんとの約束の時間まであと十分。

 さあ、そろそろ行こう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼやき、つっこみ、ご感想はお気楽に!(はあと)
【小説家になろう勝手にランキング】にプチッと投票
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ