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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第十章 文化祭に願いを込めて
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第10章 9話目

 ステージ練習を終えたみんなは部室に入ると歓声を上げる。


「うわあっ!」

「埠頭の印刷出来上がったんですねっ!」


 納品された二百五十部の文芸部同人誌『埠頭・二十八号』をみんなが手に取る。

 今号はローカル密着小説特集と銘打って、地元のリアルな情報が満載だ。


「ちょっとドキドキです~」


 そう言う大河内が書いた小説は「わたしのプリンが大きいわけ」。

 ある土曜日、メイド喫茶に入った主人公が巨乳の美少女メイドさんと出会うラブストーリーだ。

 小説ではそのメイド喫茶のプリンアラモード、メニュー名を『わたしのプリンがアラモード』と言うのだが、そのふざけきった名前のプリンアラモードのプリンは土曜日だけ二回り大きいらしい。


 僕は事の真偽を確かめるため、先々週の土曜日に、部誌にも広告を出してくれたメイド喫茶・メイシルフィードに行ってきた。


「いらっしゃいませ~ ご主人さま~」


 ウェーブが掛かった綺麗な長い栗毛。

 眩いメイド服に癒し系の優しそうな瞳が可愛く微笑む。


「お…… 大河内!」


 思いがけず僕を出迎えてくれたのは大河内だった。


「実は私、この前から週末だけここでバイトしてるんです~」


 そう言うと僕を席に案内してメニューを広げる彼女。


「羽月さん、私の原稿を見て来てくれたんですよね~。あの小説は本当なんですよ~」


 そう言いながらメニューを指差す。


 『わたしのプリンがアラモード』


 僕の目の前で前屈みになる大河内。

 今にもメイド服を突き破って弾けそうな胸が迫る。


「じゃっ、じゃあ、そのプリンなにがしを貰おうかな」

「もう、ご主人さまったら恥ずかしがっちゃダメです~ ちゃんと「わたしのプリンがアラモード」って言ってください~」

「じゃ、そ、その、わ、わたしのプリンがぷりんぷりんのプリン体で……」

「ビールにしますか~?」

「違った。わたしのプリンがアラカルトで……」

「もう~ ちゃんと言わないとオーダー通せないんですけど~ 羽月さんだから大目に見ます~」


 そう言い残しカウンターに戻る大河内。

 店を見回すと土曜日だからか、まだ昼過ぎというのに席は七割方埋まっていた。

 やがて、大河内が持って来たプリンアラモードのプリンは確かに巨大だった。


「実はこのメニュー、私が店長にわがままをお願いしたんです~ 私が持って行くプリンは大きいのが良いって~」

「そのわがままを聞いてくれる店長って凄いな」

「そうなんです~ いつも被っている「うりゃ魔女のお面」を外したらびっくりするくらいのイケメンなんですよ~」

「もう、お世辞言わないでください、佳奈ちゃん」


 声の方を見ると「うりゃ魔女」のお面を被った店長が立っていた。


「あっ、これは店長、お久しぶりです。遊びに来ました」

「いらっしゃいませご主人さま。ご主人さまってとても綺麗な顔立ちですよね。うちでバイトしませんか?」

「はあっ? 僕、男なんですけど」

「いいえ、絶対似合いますよ、メイド服!」

「それは私も保証します~」

「同調するなよ、大河内!」

「これは失礼、ではごゆっくり……」

 …………


 そんな先々週の土曜日のことを思い返しながら、思わず声が漏れた。


「しかし、大河内のって大きかったよな……」

「私がどうかしましたか、羽月さん~」

「あっ、いやごめん。何でもない」


 慌てて大河内から目を逸らす。

 みんなめいめいに部誌を手に取って読んでいる。どの顔も一様に楽しそうだ。


「わたしも見ていいかしら?」


 気が付くと花の女子テニス部部長の柳崎さんが微笑んでいた。


「勿論ですよ。でも、もうすぐ打ち合わせを始めますね」


 僕は白板に文化祭当日の予定を書いていく。



  【文化祭 なんと、もうあさってだお!】


  ■9時30分~ ざんねん喫茶開店!

   接客  ざんねんガールズ (弥生、佳奈、繭香、あかね)

       花の女子テニス部の皆様

       執事が一匹:月野

   料理長 羽月

  ■10時10分~10時25分 ノベルキュートのステージ

   お客さんをガッツリお店に誘導だっちゃ!

  ■16時30分~45分 小芝居:「金色夜叉?」

   夕方に来た外部の小中学生も誘導だっちゃ!

  ■17時20分~ ラノベ作家さんサイン会

   ラストスパートだよん

  ■18時30分~ 終了後はポテチで打ち上げ

  ■23時00分~ 布団の中で何をしようと僕の勝手だよね(うふっ)



「じゃあ、明日の段取りについて話をしよう」


 僕が白板に予定を書いている間に、みんなはテーブルを囲んでポテチをモシャモシャ食べ始めていた。


「翔平くん、やっぱりその『ざんねん喫茶』って名前、変えない? なんとなく悲しいわ」


 小金井が残念そうな顔をする。

 当初『アイドル喫茶』とする予定だったが、給仕はアイドルだけじゃなく、執事コスとかテニスウェア姿とか多岐にわたる事になったので、月野君の発案で『ざんねん喫茶』と言う名前になった。確かに言い得て妙な命名だった。


 当初、女性陣からクレームが付いたが、誰も代替案を示せなかったので僕と月野君で強引に突破した。


「一度決まったんだから文句言うなよ、小金井らしくもない」

「そうだけど……」

「完璧な女は好まれないっす! 少しどこか残念な女の子の方が可愛くって異性のハートをくすぐるっす!」


 力説する月野君を暫く恨めしそうに見ていた小金井だが、小さく嘆息して。


「わかったわ。ところで話は変わるけど」


 彼女は目の前にあるポテチの袋に手を突っ込みながら話を続ける。


「サイン会に来てくれるラノベ作家さんって誰なの? もう決まってるんでしょ!」


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