第10章 8話目
文化祭に向けて松高は日に日に活気づいていった。
「弥生と繭香ちゃんの歌、凄いです~! あの振り付け、普通踊れないです~!」
大河内が驚くようにステージの上で所狭しと暴れ回るふたり。歌の振りと言うより、戦隊ショーのクライマックスシーンを見ているようだった。
「あれだけ動いてちゃんと歌えるんだから凄いっすね。それに伴奏している深山さんのキーボードも素晴らしいっす」
今日は文化祭ステージの予行演習日。
プログラムでは朝一番に『ノベルキュートライブ:文芸部・軽音部有志』となっている。月野君が言うように深山さんのキーボード始めバックの演奏もイカしている。時々ドラムが走るけど、ベースがしっかりしてるから安心して聴ける。
作戦では朝からステージで文芸部の宣伝をして大量のお客さんを出店に誘導する。外部からの来客が増える夕方に深山さん作の小芝居『金色夜叉?』で再度お客さんを誘導する作戦だ。
「弥生先輩、よかったっす」
「繭香ちゃんも凄いです~ 歌いながら悪役戦闘員をやっつけて欲しいです~ イ~」
「深山さんは軽音の方にもゲストで出演するんだって?」
みんながリハーサルを終えた三人に声を掛ける。
「羽月部長ごめんなさい。文化祭忙しいのにどうしても断れなくって」
「仕方ないよ、僕らも軽音に協力して貰ってるからね」
深山さんは軽音部の他のステージにもゲストで出るらしい。
楽器ができるって、とても羨ましいと思う。
「次は小芝居のリハね」
「皆さん頑張ってますね!」
三人の部員を引き連れて声を掛けてきたのは女子テニス部部長の柳崎麗奈だった。
「あ、柳崎部長。見ていてくださったんですか」
小金井と立花さんは嬉しそう。
実は少ない部員でステージと出店の両方を回すのは難しく困っていた。
そんなとき、柳崎さん助け船を出してくれた。
文化祭での出店の手伝いを買って出てくれたのだ。
「はい。あとで出店の方の打ち合わせに行きますね。衣裳の方もバッチリですよ」
花の女子テニス部は九月に行われた県大会の団体戦で三回戦まで進んだらしい。中学生にボコされていた春に比べると急激な進歩だ。
「それもこれも立花さんのアドバイスのお陰です。まあ、くじ運が良くて相手に恵まれたと言うのもありますけど」
柳崎部長は嬉しそうに立花さんに頭を下げる。立花さんは花のテニス部に練習方法とかのアドバイスをしていたらしい。
「わたしはただ格好いい男性コーチとイケメン男子テニス部の彼氏と他校ライバルの設定資料集を作っただけです」
「いいえ、あの萌える設定があればこそ私達は辛い練習に耐えられたのですわ」
女子テニス部の快進撃は空想と夢想の痛すぎる産物らしかった。
「大河内先輩、そろそろリハに行くっす」
バンカラっぽい衣裳を着た月野君がステージに向かう。
やがてステージの背景に大きな月が映し出されリハーサルが始まった。
「おみやさん。あ、いや、おみゃ~さん、ライトノベルに目が眩み、よくも文芸部を裏切ってくれただぎゃ~」
何故に名古屋弁?
「きゃんいち様~ およよっ、怪人およよっ……」
月野君の足元に泣き崩れる大河内。
「きゃんいち様、別れろ切れろは女の時に言う言葉。今のわたしにはいっそ「魔女っ子パワーでルルルルル~、男の子になあれっ」と言ってください」
「ええい、離すだぎゃ~。ラノベに目が眩み、魔女成金となったおみゃ~さんは、わたしが愛したスパイではないだぎゃ~」
「そ、そんなあ~。あなた好みの痛い女になりたく頑張ったのにその言われよう。みやは、みやは涙が出ちゃう。だって女の子だもん!」
「今月今夜のこの月を、来年の今月今夜のこの月を、再来年の今月今夜のこの月を、十年後の今月今夜のこの月を、僕の青色レーザーで吹き飛ばしてみせるだぎゃ~」
きゃんいち様がその後ノーベル賞を受賞するところで物語は終わった。
「なあ、深山さん、この話はちょっと支離滅裂すぎない?」
「お尻が滅裂で尻滅裂だなんてっ! きゃっ!」
赤くなっていた。どう言う想像をしたのだろうか。
「やんややんや」
周りのギャラリーには大好評のようだった。
特に女子生徒は月野君に喝采を送っている。
イケメンの月野君にはファンクラブができているという噂だ。
「ポロリ、なかったな……」
一部の男子生徒にはそんな落胆の声も聞こえたが、大河内に伝えるのはやめておこう。ムキになってわざとポロリそうだ。
「さすが文芸部、素晴らしいですね。では、あとで部室の方に伺いますね」
リハを見届けた柳崎部長と花のテニス部の皆さんは手を振りながら去って行った。




