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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第十章 文化祭に願いを込めて
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第10章 5話目

「お待たせしました」


 もうすぐ陽も西の空から消えようとしている。

 ここは喫茶・シュレディンガーの猫。

 名崎新聞社の宮脇さんは僕を見るとにっこり笑った。


「いえいえ、僕も今来たところですから」


 そう言って読んでいた新書本を閉じテーブルに置いた。

 『部下は褒めなきゃ直らない』。

 宮脇さんって部下がいるんだ。


「あっ、なかなか意味深なタイトルの本ですけど、中身は普通のビジネス書ですよ」


 そう言って苦笑するとウェイトレスさんを呼んだ。


「僕はいつものヤツ。羽月さんもそれでいいかな?」

「はい、お願いします」


 かしこまりました、という言葉と屈託のない笑顔を残して大学生のバイトらしいウェイトレスさんは戻っていく。


「もう、いつものって言うだけで通用するようになりましたね」

「そうですね、いつものプリンアラモードですね」


 渋いナイスミドルにしか見えない宮脇さんが「いつもの」プリンアラモードを頬張る姿はこの上なくかっこいい。肩肘張っていないというか、とてもナチュラルだ。自然に優しい生き方とはこう言う事を指すのだろうか。


「さて、次の原稿の件ですが」

「はい……」


 宮脇さんはプリントした次回原稿を鞄から取り出す。


「次回も凄くいいですね、『流星群にありがとう』。プラネタリウムで観た流星群に声を出して願い事を唱えてしまうラストシーンにはいい歳して泣いてしまいましたよ」

「よかった…… ありがとうございます」


 宮脇さんに褒めて貰ってほっと一息。

 次回作は立花さんの筆によるものだ。彼女の真面目なイメージと裏腹に前半はギャグ満載で飛ばしまくるが、最後は思いっきり泣かせてくれる。ラノベ作家の端くれとして焦ってしまうほど素晴らしい作品だと僕も思う。


「基本的に変更点はないのですが、少し気になる点を赤字で書いているので見ておいてください。誤変換が幾つかある程度ですが」


 そう言うと宮脇さんは運ばれてきたプリンアラモードにフォークを伸ばす。


「ところで宮脇さん、ひとつお願いがあるんですが」


 彼はプリンを口に突っ込むと美味しくてたまらないと言った笑顔を僕に向ける。


「はいっ、何でしょう?」

「実は、もうすぐ文化祭があって名崎新聞の掲載部分を展示したいんですが……」

「はい、全く問題ありませんよ。と言うか、どんどんやってください」

「あと、編集者さんとの打ち合わせ風景も展示したいんです」

「僕との打ち合わせ風景ですか? 僕は全然構いませんよ、でも地味ですよね」

「実は僕もそう思ったんで……」


 僕は窓の外を見て手を振る。


「ごめんなさい。新聞社の人にこんな事をお願いしてはいけないかも知れませんが、やらせにご協力ください!」

「やらせ?」


 宮脇さんが不思議そうな顔をしていると喫茶店に文芸部の面々がなだれ込んでくる。


「僕じゃ絵にならないんで、うちの女子部員と打ち合わせしている振りをして貰えませんか。写真撮りたいんで」


 小金井に大河内、立花さんに深山さん、そして月野君。

 入ってきた連中を驚いたように見ていた宮脇さんは急に吹き出した。


「はっはっは。やらせねえ。いいですよ、僕でよかったら好きに使ってもらって」


 心底面白そうに笑う宮脇さん。

 僕は持っていたデジカメで「やらせ打ち合わせ風景」を撮りまくった。

 四人の女子部員を前に原稿を広げる宮脇さんの写真。当然僕は撮影役で月野君は撮影用の照明係だ。


「ありがとうございます。いい絵が取れました」

「いえいえお安いご用です。ところで僕もひとつお願いしていいですか?」


 それは僕たち文芸部の集合写真を撮りたいと言うことだった。

 勿論僕たちは快諾した。

 しかし一体何に使うんだろう。うちは可愛い子が多いから飾っておくとかかな。


「男も入るんですか?」

「当然です」

「せっかくだから宮脇さんも一緒に写りましょうよ」

「いえ、僕はいいんです。はい、いい絵が撮れました。へんな風には使わないので安心してくださいね」


 そう言いながら宮脇さんは店員さんにプリンアラモードを五個追加で注文して。


「皆さんありがとうございます。名探偵ロコドル、大好評ですよ。景品への応募も大幅に増えました。従来の五倍増ですよ」

「うわ~、ありがとうございます!」


 みんなは顔を見合わせ声を弾ませる。


「そうだ翔平くん、宮脇さんにも聞いてみましょうよ!」


 いいことを思いついたように小金井が喋り始める。


「実は今度の文化祭で作家さんのサイン会を企画しているんですけど、どなたかいい作家さんをご存じないですか? ラノベの作家さんなんかがいたら嬉しいんですけど」

「作家さんですか。そりゃうちの新聞に書いて戴いた地元の方なら何人かご紹介できますけど……」


 彼は暫く考えていたが、やがて。


「ラノベの作家さんは直接は知りませんけど、友人にラノベの編集者がいるから聞いておきますね」

「ありがとうございます。ダメもとでいいのでお願いします」


 僕の方を向いて「ひと仕事したわよ」と言う顔をする小金井。

 これで誰かを紹介して貰えたら僕としても最高にハッピーだ。


「僕からもお願いします」


 そう言うと、小金井にだけ見えるように親指を突き上げる僕だった。


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