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秘密の本は、わたしのお店で買いなさい!  作者: 日々一陽
第十章 文化祭に願いを込めて
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第10章 2話目

「この件は文芸部の中だけの話にしてくださいねっ!」


 夏休みも終わり、いよいよ今日から新学期。

 放課後の文芸部はいつもにも増して盛り上がっていた。


「いいじゃない、被害者なんだし」


「被害届け出してないんです。みんなでわたしをいじめないでください」


 変質者騒動の件。

 立花さんはみんなに取り囲まれて根掘り葉掘り事情を聞かれていた。


「ねえ繭香ちゃん、どうして届け出さなかったの?」

「別に被害って言う被害に遭ってませんし、何となく悪いこともしたかなって……」

「やっぱり加害者って意識はあるんすね。男の自慢のものを「お粗末」だなんて……」


 バシッ!


「いででで。小金井先輩、痛いっす!」

「見せる方が悪いんでしょっ!」

「それにわたしはお粗末なんて言ってませんよっ、かわいいって言ったんですっ!」

「どっちも一緒じゃないっすか……」


 月野君は一貫して加害者に同情的だった。

 もしかして、可愛いのか、月野君?


「で、繭香ちゃん。どうだったの? 可愛かったの?」

「やめてください弥生先輩まで。ホントに見えなかったんですって」

「まあまあ~、フライドポテトでも食べましょう~」


 大河内の一言にみんなハンバーガー屋のフライドポテトに手を伸ばす。


「ところで~ このフライドポテトとどっちが大きかったですか~?」


 それを聞きたいがためにわざわざフライドポテトを買ってきたのか? 大河内。


「ひどい言われようっす。せめてたこさんウィンナーと比較してあげて欲しいっす」

「フライドポテト食べる気が一気に失せたですっ。変な例えはやめてくださいですっ」


 そんなことを言いながらもフライドポテトを美味しそうに頬張る深山さん。


「ところで生徒会室に文化祭模擬店の出店要項が掲示してあったわね」


 思い出したように小金井が僕の方を見て言った。


「もうそんな時期か……」


 松高の文化祭は例年秋に行われる。僕ら文化系サークルにとっては年に一度の大舞台だ。


「翔平くん、今年は何をするの?」

「そうだな。じゃあ今からみんなで話をしようか」

「模擬店ですかっ。あかね楽しみですっ」


 僕は立ち上がると白板の前に立った。



  文化祭 模擬店(案)


  文化祭:十月十日(金)

  ■出店アイディア

  ・メイド喫茶

  ・執事喫茶

  ・平安絵巻喫茶

  ・ステージ喫茶 歌って踊れる文芸部

  ・県内同人誌の即売会

  ・作家さんの講演会とサイン会

  ・古本市

  ・ミュージカル喫茶



 出店アイディアをみんなに聞いて書き並べたけど。


「なあ、ミュージカル喫茶って、何なんだ?」

「店員さんがみんなミュージカル仕立てでお持てなしをするんですっ。歌いながら、「いらっしゃいませ~(おんぷ) ご注文は、お決まりですか~(おんぷ)って感じで……」

「あかねちゃん、それって、結構恥ずかしいっすよ」

「じゃあ歌劇喫茶でどうですっ?」

「言い換えただけじゃん」


 議論は最初から白熱教室と化していた。

 と言うか、みんな好き勝手に言っているだけだった。


「あたしは繭香ちゃんとユニット組むからね。軽音部にバック頼んでくるね」

「勝手に突っ走るなよ、小金井」

「走り出したら、何か答えが出るものなのよ!」

「佳奈も入ります~ セクシャルバイオレットです~」

「凄いっす。小金井先輩、大河内先輩と繭香ちゃんのユニットって、絶対最強っす」

「じゃあ、あかねも気分はピーチパイで参戦するですっ!」

「だからうちはアイドル部じゃないんだってば!」

「翔平くん小さいこと気にしすぎよっ。お祭りは踊ったもの勝ちなんだから!」

「踊る阿呆に見る阿呆、どうせ阿呆なら踊らにゃコンコンっす!」

「キツネかっ!」


 真面目に考えてる僕がバカなのか?

 ともかく収拾がつきそうになかった。


「わかった。みんなの要望は分かった。少し冷却期間をおいてもう一度話し合おう。僕はその間に生徒会から条件や他の部の動向を聞き出してくるから」


 今年の文化祭は何かが起きそうだ……

 そんな予感がした僕は一旦時間稼ぎをすることにした。


          * * *


 トントン


「合い言葉は?」

「会長の水着にズッキンドッキン」

「入っていいわ」


 毎度お馴染み生徒会室。

 青木女史は書類を見ていた顔を上げる。


「どうしたの羽月くん。悪事の自供に来たの?」

「僕は善良な生徒です。人に聞かれて困ることなんか何ひとつ……」

「そうそう、ぺろぺろりん先生、第二巻発売おめでとう。早速買って読みましたよ」

「すいません。人に聞かれて困ることなんか何ふたつ……」


「でもとっても面白いわね。直輝さんにも教えといたから、きっと読んでると思うわ」

「えっ、志賀先輩に教えたんですかっ!」


 ダメだ。もうお日様の下に戻れない。


「勿論。凄く喜んでたわよ。羽月はやっぱり凄いって」

「いえ、合わせる勘合符がありません」

「うん、普通持ってないわね。ところで今日のご用件は何?」

「実は、文芸部とラノベ部を元の形に戻したくって……」

「えっ……」


 青木女史は意表を突かれたのか口をポカンと開けたままだ。


「それで夢野先輩と話し合いがしたいんです。でも僕とふたりじゃ話にならないから間に入って貰えないかと……」

「羽月くん……」

「お願いできませんか」


 ガタン


 青木女史は椅子から腰を浮かせる。


「勿論! でも、どうして急にそんなことを……」

「何となくです。何となくラノベ部と一緒になった方がいいかなって」


 青木女史は暫く僕に疑いの眼差しを向けていたが、やがて笑顔になって。


「分かったわ。夢野に話をしておくわ」


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